詩「真冬の林檎」

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ラジオの聞こえる長風呂が 冷え切った心を溶かすように 口の中で 真冬の林檎が溶けていった それは雪にように柔らかく べっこう飴のように甘かった あなたの酒くさい 息の止まるような抱擁は わたしの心臓を躍らせる 寝巻の下では汗が止まらない 心が湯の中に 浮かび続けている限り 深夜のテレビから流れる 焚き火の音に包まれながら わたしはふと 厳しかった祖母を思い出した 思えば わたしの規範は祖母譲りだろう いつだって 女性は美しくありたいと思う 祖母が旅立って 父は酒を飲むようになり 母が亡くなって 酒とたばこを辞めた 亀の甲羅のような皺を顔に刻みながら 父はわたしの子に会うたびに くしゃくしゃに丸められた 折り紙のように笑った あなたのお酒のにおいは まだわたしの心に残っている 長い二日酔いだ 今夜は冷えるだろうか 真冬の林檎が溶けるまで ただゆっくりと湯に浮かんでいたい あなたの口ずさむラジオが 月の裏から聞こえてくるまで
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