ホワイトムスクの午后

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「最初はね。本当にそう思ってたんですよね。暗いなぁ…、先生って根は暗い人なんだろうかとか、もしかしたら病んでるんじゃないだろうかとか」 私はまだ長いタバコを消し、またナイフとフォークを取り、パンケーキを食べた。 「けど、小説って人間を書くものじゃないですか。人間の根底って実は暗いモノなんじゃないかって自分なりに考えてみたんです。色々と問題を抱えて人って生きてるんですよね。いつも明るく振る舞っている人も、実は凄い借金があったり、奥さんと離婚調停中だったり…。だから、人を本気で書くと、暗いモノなのかなって」 私は頷く。 「だから若い世代向けの小説って若い子には受けるけど、大人にはイマイチ刺さらないって事が多いんですよね。悩みの質がまったく違う訳ですし」 私は二枚のパンケーキを食べ終え、ナイフとフォークを置いた。 そしてコーヒーを飲んで、椅子に深く座り直した。 「読後もモヤモヤに関しても同じで、小説はそこで終わるかもしれないけど、作品に出て来る人にはその後もある訳ですし、何かに続く様な表現ってもしかしたら正解なのかもって思える様になったんですよね」
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