ホワイトムスクの午后

24/26
前へ
/26ページ
次へ
少し辺りが暗くなり始めた頃に上杉さんは会社に戻ると言い、バッグを持った。 「いつもすみませんね。色々とやって頂いて…」 私は頭を下げる。 「いえいえ。いつでも言って下さい。あ、足らないモノはまたメッセージ送っておいて下さいね。今度買ってきますので」 私は礼を言うと、上杉さんと一緒に玄関を出た。 もう上着が無いと玄関を出るだけでも寒い季節になった。 玄関から漏れるホワイトムスクの香りが冷たい大気に溶けていく。 「先生…」 上杉さんは車にバッグを乗せると振り返り私の顔を見た。 「実は来月から雑誌の方へ異動しないかと会社で言われまして…」 突然の話だった。 会社という組織で働くからにはそれも仕方ない。 「それを先生に相談しようかと思って、突然やって来ました」 私は無言で上杉さんに頷いた。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加