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序章 父親の思い出
時輪守の父、時輪想は魔術師だった。
いつも難しい本を読んでは頭を捻り、魔術の実験に明け暮れていた。
子が父の仕事に興味を持つのはよくあることだ。
まだ幼かった守も、想が家にいない時を見計らっては部屋に忍び込み、本棚にある魔術の本や、机の上の実験道具で遊んでいた。
いつか自分も魔術師になるのだ、なれるのだと信じて疑わなかった。
だが、守は八歳になっても魔術の才能は目覚めなかった。
魔術は生まれつきの才能が大部分を占める学問だ。魔力が少なければ一度の魔術使用量は減り、頭が悪ければ魔術書を解読できず、魔術の最奥に辿り着くことはできない。
想が子供を作ったのも、愛し合ったからではなく、自分の魔術を子孫に継承するためというのが一番大きかった。
結果、想は家族を捨て、家を出た。母は絶望し、守にあたったが、守はまだ諦めなかった。 まず守が考えたのは、才能を他の“何か”で穴埋めする方法だ。
守は身体を鍛えた。「健全な精神は健全な肉体に宿る」と考えたためだ。
それから、十年の月日が経った。
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