真実というのは、----------

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            11.事件の接点を追う  車で神奈川県警本部へ戻ると、秋山刑事が、 「これは、江草刑事お疲れ様です。横波署どうです?」 と聞いた。すると、江草刑事は、横波署の水上刑事とさきほど話してきたことを言った。  それを聞いた秋山刑事は、 「やはり、さすが横波署の水上さんだ。あ、そうです。これ、私の部下が把握しておいた木ノ内産業オーナー 木ノ内 忠行のをどうぞ。」 と地場産業の案内で詳しく紹介されていた新聞記事や企業機関誌をくれた。 江草刑事は、 「ありがとう。参考にさせてもらいます。」 と伝えた。  そして、江草刑事は、秋山刑事より受け取った新聞記事や企業機関誌に目を通した。地場産業の紹介欄には、昭和2年4月28日生まれの75歳で、昭和38年に創業し、昭和40年代のオイルショックの頃に食品関連の消毒用エタノール商品が安定して売れ業績を伸ばした木ノ内産業が記載されていた。東京の江頭橋区出身で、戦後まもなく高校卒業で、家族は東京大空襲で亡くし自分自らの手と足で当時の基幹産業の鋼鉄工場で日夜働いていたらしい。そして、木ノ内氏が、30歳つまり昭和32年頃に鋼鉄産業の下請け企業を創立し、後ほど木ノ内産業の共同経営者の化学者比呂 広嗣と出会い消毒用エタノール商品を開発し創業したらしい。企業機関誌には、神奈川県知事賞を平成15年に受賞されて笑顔で写っていた。木ノ内氏は、毎年何回も受賞を断ってきたが、それは先に病死していた比呂氏のことを配慮してきたことと彼への哀悼の念から抜け出す勇気で受賞しようと今回決意したと も掲載されていた。それから、しばらく、江草刑事は、机上のパソコンで捜査情報の処理をしていた。  江草刑事は、 「あつ、これは、そういえば木ノ内オーナーの件は、」 とつぶやきながら、島中刑事のメモにもあった平成18年6月25日に( 14時 木ノ内取締役 木田 に会う )と記入してあったことを思い出した。  担当割リストに目を通して、木ノ内産業担当の上尾 捜査班に内線で、連絡し、 「あつ、捜査一課の江草です。今、上尾さんいらっしゃいます?」 すると、事務員の江花さんが、 「あつ、いますよ。江草さんですね。しばらくお待ちいただけます。」 約1分程して、上尾捜査員が、電話に出て、 「あつ、お待たせしました。江草さんですね。お疲れ様です。木ノ内オーナーの 変死事件の件ですね。どうぞ。」 と言った。 江草刑事は、 「島中刑事が、6月25日に木田という方に会った後の何か分かったことあります?私なりの解釈では、来藺刑事と新聞記者2人の事件とこの木ノ内オーナーの変死事件は、接点がなくどうしてもそちらの進展具合を確認したく。」 と言った。 すると、上尾捜査員は、 「はい、木ノ内オーナーの変死事件は、捜査情報にもある通り新聞記者大北氏が亡くなった去年暮れごろの12月30日の1週間後1月5日に、彼の別荘のある群馬県高崎市のやまぶどう園近辺にて散歩中倒れていたようです。」 また、 「群馬県警さんの報告によると、この日に一人不審人物を誤認逮捕して余り動きにくい中、まだ捜査官は、極秘で動いているそうです。木ノ内オーナーのトラブル関係を私の班が今も調査中ですが、木田取締役には、うちの捜査員2人が行きました。そこでは、木ノ内オーナーが別荘を利用することは社内でも極秘らしいですがこの事をどういうルートなのか謎だが知ってる人を来藺刑事は、必死に追跡していたかもと言っていました。」 と言った。 江草刑事は、 「はー。分かりました。ありがとうございます。」 と受話器を置いた。  でも、なぜ、彼が?と愕然とした。こんな大事件をなぜ彼が?。と何十分も呆然としていた。  しばらくして、豊肥島捜査一課課長が、何か気づいたらしく江草刑事の肩をポンと叩き、 「ちょっと、談話室へ来ても。江草さん。お疲れさん。」  そして、豊肥島課長と江草刑事は、談話室へ入った。 豊肥島課長は、 「江草さんは、たしか警視庁入庁されて15年目でいらっしゃいますね。私は、神奈川県警本部勤務だが、約20年です。今、電話で来藺刑事の捜査内容に驚いてらっしゃったんじゃないでしょうか。実は、来藺刑事は、警察庁のキャリア組で世にも聞かれる腐敗をなくす為に10年前にいらして下さった方です。この事を私と江草刑事とでしまっておきましょう。もちろん今回は、残念でしたし、私個人的にも何度か無理しないように捜査員をつけると何度も催促したんですが。彼、どうしても以前のおそらく警察庁で、職務のミスで同僚の信頼を失い悔いが残らないように何度もやりとげたいと懇願されましてね。」 と言い、窓の外を見つめ泣きそうな表情だった。 そして、さらに 「でも、江草さん。今後我々ももちろん尽力しますし、期待してますよ。江草さんの活躍は、私たち神奈川県警にとっても頼みの綱ですから。まあ、何かございましたら、私にでも気軽にご相談下さい。」 と言い、江草刑事は、 「有難うございます。んーしかし、この事件を。うーん。この事件を必死にあの彼がと思うと、胸が痛いですねえ。彼のためにも、否、私自身のためにもやります。飯島課長、すぐにでも彼のことを教えて下さり有難うございました。失礼します。」 と言い、やや涙目になりそうな顔をはらいのけながら談話室を後にした。  そうこうするうちに、夜遅くなり、江草刑事は、神奈川県警本部を出て、帰路についた。
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