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この世に回復魔法が使える者は少ない。回復魔法が使えると判明した場合聖職者への道を義務付けられる。怪我や病気を治すものや魔力を回復するものなど様々な回復魔法がある中、メリエルは最高レベルの回復魔法を持っていた。それは復活魔法だ。
どんなものも完全に復活させる。修行をするとたちまち一年ですべての回復魔法を使いこなし、復活魔法はさらに強化され神の遣いだと称えられた。戦争が激化し、兵士たちの回復の為に聖職者たちは戦地へと赴く。聖職者は敵から狙われやすいので最優先で守らなければならない存在だ。
メリエルが一人いれば通常の聖職者百人分と言われた。数回の魔法で疲れてしまう他の聖職者たちと違い、メリエルは何回、何十回使おうが笑顔で対応し、何十人もまとめて治す広範囲魔法を使っても息一つ乱さなかった。
メリエルがいれば、戦死者が最低限となる。国中の民から愛された。
「私はね、パン屋になりたかったの」
傍仕えの騎士にそんなことを言った。メリエルの護衛はトップクラスの実力の者に限定された。騎士、魔法使い、錬金術師。メリエルの護衛になることは英雄と同じだ。誰もがその地位を望んだ。
「パン屋」
「そう。私が作ったパンをシスターたちは美味しい美味しいって食べてくれた。嬉しくて、毎日パンをこねてたわ」
メリエルに親はいない。赤ん坊の時に教会前に捨てられていたらしい。
「教会は貧しくて、麦を育てようにもうまくいかない。もっと元気に育ってほしいって思っていたら麦があっという間に育ったの。それからよ、私が聖女と呼ばれるようになったのは」
「……」
傍仕えになったばかりの若い騎士は真剣にその話を聞いていた。近くにいた魔法使いと錬金術師、先輩の騎士は軽く笑いながら聖女を褒める。
「素晴らしい、やはりあなたの才は生まれつきのもの。神が遣わした御方と言われるのもわかります」
「あなたがいるからこの国は豊かです。そんなあなたに仕えることができて光栄です」
「どんな事があっても必ずお守りいたしますので、安心してお過ごしください」
誰もが彼女を褒め称えた。彼女がいなければこの国は弱い立場だ、あっという間に近隣の国に攻められてしまう、そんな立地だった。
その話を聞いていた若い騎士はメリエルに尋ねる。
「今は、パンを焼かないのですか」
その問いに無言のメリエルに代わるように先輩騎士が顔を顰める。
「メリエル様に馬鹿な質問をするな、そんな事をしているほど暇ではない」
まったくこれだから新人は、という空気となったので一礼をして部屋を出た。
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