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奇跡の力だと言う。どんなケガも瞬時に治り、病もあっという間に治る。目が見えない者、足が動かない者、余命少ない者、すべてを復活させてきた。そうなるとこんな期待が生まれてくる。死者を蘇らせることもできるのではないか? いや、メリエルならきっとできる。
実は国王の命令でその取り組みは始まっている。死者を蘇らせるための研究、メリエルの魔法の強化。夜遅くまでその取り組みは続いており、体を壊さないのが不思議なくらいメリエルは健康的だった。徹夜をしてもクマを作ることなく優雅にお茶を飲む。
「メリエル様」
中庭で静かに本を読んでいたメリエルに声をかけたのは新人の騎士だった。中庭にいる時は一人にするようにときつく言いつけられているが、それでも彼はメリエルに近寄った。
「罰を受ける覚悟で来たのなら、大切な用事?」
「すぐそこに、外敵に襲われ傷ついた小鳥がいるでしょう。何故治さないのですか」
メリエルからほんの数歩先の距離に、ぴくぴくと痙攣するようにもがいている小鳥がいた。
「本を読んでいて気が付かなかった」
「読んでいませんよね。ページがまったくめくられていません。小鳥が落ちてきたことにも気づいていたはずです」
「……」
メリエルは、ぱたんと本を閉じる。そして、小さく笑うと若い騎士に言った。
「その怪我は命に関わるくらい酷いものよ。手当してあげて、助かるかどうかわからないけど。助からなかったら大地にかえしてあげて」
そう言うと、メリエルは席を立った。騎士は小鳥をそっと手で包むと急いで自分の部屋に戻る。獣医に手当を頼み、餌や水を与えた。
その後若い騎士はメリエルから言いつけを破った罰として謹慎処分が言い渡された。
近々大きな戦争が控えている。メリエルの活躍でこの国は急成長を遂げた。周辺諸国を侵略し続けた結果、周辺国は同盟を結んで3カ国同時に進軍を開始したのだ。
メリエルは当然最前線に出る。護衛達も勿論行くが、若い騎士はメリエルから待機を命じられた。謹慎処分中だからだ。
「メリエル様、この者は貴女の護衛にふさわしくない。他の者を推薦します。降格処分としますので」
騎士団長がそう言うと、メリエルは少し考えてからにっこり笑う。
「そうして頂戴」
「こんな愚かな者をお傍に推薦した事、大変申し訳なく」
「いいのよ。そうね、少し彼と話がしたいわ。少しだけ二人にしてちょうだい」
その言葉に新人の騎士以外の者が外に出る。命の気配に敏感なメリエルは数十メートル先まで人の気配を感じ取る。盗み聞きやこっそり傍にいることは不可能だ。
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