【期待の調律】

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【期待の調律】

「リハお疲れ様です。今晩はよろしくお願いいたします。共演できるなんて夢みたいです!」  17時。  俺こと、保坂(ほさか)(かける) ・21歳は、とあるライブハウスの控室で先輩達に挨拶をしていた。 「あはは、なんか照れくさいな。こっちこそよろしく」  先輩バンドのリーダーの人が、気さくな挨拶を返してくる。  対バンと呼ばれる、複数のバンドで入れ替わりライブを行う形式。今晩はその対バンがV(ヴィジュアル)系バンドのイベント日として催される。ライブ前の俺は胸を高鳴らせていた。 「かけるん、今日はピックきれいに投げられたらいいな」  含み笑いで運動神経を小馬鹿にしてくるのは、上手Gt(かみてギター)真砂(まさ)。バンドはツインギターで、下手Gt(しもてギター)を担当する俺は、こいつのリード(いっぽん)弾きに合わせてコード(ふくすう)弾きをするのが基本の仕事になる。 「うるさい。お前こそ、間奏中にシールド(こーど)でつまづいて、無音で本物のギターソロになる癖は治ったんだろうな?」  緊張をほぐそうと軽口を叩きあっていると、他のメンバーも笑い始めた。 「はいすとっぷ。もうすぐ本番が始まる。機材チェック怠るなよ?」  Vo(ヴォーカル)兼リーダーの(あお)が口を開いて、Dr(ドラム)鈴矢(すずや)が笑う。 「俺、機材の前に青春忘れて来たわ」  Ba(ベース)(れん)がもっと笑う。 「今がMC中じゃなくてほんとに良かった」
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