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彼女は細い腕をフェンスの隙間から出し、紙飛行機をかまえる。
「じゃあ飛ばすよー」
願掛けというわりにはずいぶんのんきな調子だ。その雰囲気に飲まれそうになる前に、私ははたと気づいた。
「待って! ほんとにそれ、提出しなくていいの?」
あぁ、と何かを思い出したようにつぶやいてから、彼女は答えた。
「コピーしたのに書いて提出するから大丈夫」
「それ早く言ってよ! もう、止めようとして損したじゃん!」
今になって自分の必死さがおかしくなって、私は笑ってしまった。彼女もつられて笑った。
ひとしきり二人で笑った後、彼女はあらためてフェンスの向こうに手を伸ばした。
「今度こそいくよー」
軽く手首のスナップをきかせて、彼女は紙飛行機を飛ばした。勢いよく彼女の手から離れたそれは、正面に広がる青空に向かって飛んでいく。遠く、遠く。果てのない空を滑空する。不思議なことに、紙飛行機は落ちなかった。最後は白い雲に溶けるようにして消えたのだった。
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