月曜日 さゆり

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 少女は分かりやすく顔を輝かせた。吾輩が愛らしいことは知っているが、そんなにもあからさまに喜ばれるのは悪い気はしない。  それにしても……わんちゃんとは...…吾輩はそんな間の抜けた名ではない。そもそも、そこは吾輩の居場所である。  それらは看過できない問題である。 「う"ー...」  得体の知れぬ少女への警戒と問題への抗議の意を込めて力いっぱい唸った。すると少女の表情が歪んだ。 「わんちゃん…怖い…」  しまった。怖がらせるのは本意ではない。  この少女は害が無さそうに思える。近づいてみようか……。  吾輩は意を決して少女に歩み寄った。 「あ……こっち来るの?」  キョトンとしながら少女はこちらを見る。動くつもりはないようだ。  吾輩は少女の隣に座った。 〔少女、名は何という〕  という意味を込めて吾輩は声を発した。 「わんちゃん……私ね、さゆりっていうの……」  一瞬、吾輩の言葉が通じたのかと思った。しかしそんなことはないだろうと思い直した。  言葉が通じていたら吾輩の寝床からどいているはずである。 〔少女……否、さゆり。そこは吾輩の寝床である。どいてもらわねば困るのだ〕 「わんちゃんって名前いやだな……何か無いかな……」  会話がまるで噛み合わない。さゆりとしては会話している気はないのだろうが少しばかり寂しい気持ちになった。  しかし名前が変わるのは悪いことではない。名前と寝床、二つの問題のうち一つは解決しそうである。  名前というのは実に大切なものである。例え同じ名前だったとしても、自分ただ一人、あるいはただ一匹の為に考えられたものだ。それは唯一無二であり絶対不可侵のものなのだ。 「じゃあ、わんちゃんの名前はコロ!」  だからこんな安直かつありきたりなネーミングでも誇りに思うのが吾輩のポリシーである。  吾輩が思うに、さゆりは小学生であろう。吾輩が座っている場所の反対側にランドセルと黄色い帽子が置いてあった。1年生、だろうか。  ランドセルや黄色い帽子から彼女が小学1年生という結論を導き出した。そういった知恵と情報は、とある人間からもらったのだ。それが誰なのかは後々わかるであろう。  問題はこの、さゆりとかいう少女のことだ。おそらくさゆりは泣いている限りは吾輩の寝床から退かないだろう。  つまり目下の目的は、さゆりが泣いている原因を取り除くこと。 〔さゆり、なぜ泣く〕  きっとさゆりには「キュゥーン」といった具合に聞こえているのだろう。  ……やはり犬である吾輩の言葉では伝わらないのだろうか。  しかし吾輩の問いは幸運なことにさゆりに届いた。 「聞いて、コロ。あのね……」
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