リラ、ジャケットの汚れを落とす

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リラ、ジャケットの汚れを落とす

 男性は、低い声で母親に言った。母親がハンカチで拭こうとしたその時、 「待ってください!」  リラが言った。リラが男性と母親の傍に行った。 「5分で汚れを落とします」  リラは男性の上着を預かると、濡らしたタオルといつも持ち歩いているスプレーを取り出した。  汚れた部分をタオルで叩くようにしながら、スプレーをかけると見る見るうちにいちごの赤が薄くなっていった。  リラは丁寧に、かつ素早く汚れた部分をしばらく叩いていた。 「うん、これで大丈夫!」  汚れの部分が湿って少し濃い色になっていた。 「多分お仕事に行かれる間に乾くと思います。乾いたら元通りになっているはずです」  男性に上着を渡しながら、リラは泣いていた子供の頭をなでて慰めた。 「いくらだ?」  男が低い声で聞いた。 「は? いくらって?」  しゃがんで子供を慰めていたリラは、不思議そうに言って男を見上げた。 「汚れを落とした料金だ」 「料金?」  リラは立ち上がると男性の前に立って男性の顔を見つめた。  本当に見惚れる程美しい顔をしている。  だが、その瞳は冷たい色をしていた。 「料金なんていりません。汚れを落とすのは得意でいつもクラスメートにしてあげているだけです」 「お前は中学生か?」  リラの制服姿を見て男が聞いた。
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