サンゴと淫乱の馴れ初め ~ホットパンツの誘惑~

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 教室に掛けられている時計が淡々と針を進めている。あの時計は時間の流れが時たまおかしくなるのではないか、と小網サンゴは教壇の上を睨みつけながら思っていた。  そう思っているのはサンゴばかりではない。この教室の学生のほとんどが思っていたことに違いない。それほどまでこのマクロ経済学の講義は退屈だった。目はパワーポイントで作られた資料と机上のノートを往復するだけ。誰も講師の説明などはまともに聞いていない。こんなものをノートに取らせるくらいなら、いっそスマートフォンで写真を取ればいいのにと、この講義を受ける度に思っている。  一秒が十分にも感じられる退屈な時間が流れる。だからこそ、その五限目の講義の終了を知らせるチャイムは例えようがないほど心地いいものだ。  だが、それは他の学生たちの話だ。  普通の学生であれば五限目の講義が終わり次第、帰宅するなり、遊びに行くなり、アルバイトに行くなり、はたまたサークル活動に勤しむなりと学生の本分から解放されて自由に振る舞うことができる。  ところがサンゴに至っては、これから夜間部での講義が始まるのだった。  この大学は少し特殊な構造をしている。キャンパスが二つに分かれており、それらは電車で十駅、さらにそこからバスに揺られて三十分ほど隔たれた場所に建っているのだ。それぞれが主要な駅を挟んで南北に分かれていることから、この大学の関係者は北キャンパスと南キャンパスと行って区別している。  一部、学科によって例外はあるものの北キャンパスは一、二年生が講義で使い、南キャンパスを三、四年生が使うという事で認識されていた。学生たちにとっては最早違う大学の校舎と行っても過言ではない。が、大抵の場合はキャンパスが分かれていたところで大きな問題は生まれない。  キャンパスが分かれていることが死活問題となるのは成績の優秀でない学生たちだった。  それは一、二年時に必修となる科目の単位を取り逃してしまった場合だ。進級に必要な単位数が取れれば進級こそできるが、卒業までには確実に履修しなければならない。するとその講義によっては通常の三、四年用の講義を南キャンパスで受けた後に、北キャンパスに出向いて取り逃した単位分の講義を受けなければならない状況が発生してしまうのだ。  元より平均よりも下の成績だったサンゴも去年一つだけ単位を落としており、そんなバカみたいな時間割で講義を受けることを強いられていたのである。
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