在りし日のかけら

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お客様がフロントでお会計が終わると、私は美容室の名刺を渡しながら、 「本日はご来店ありがとうございました。 よろしければ、また担当させて下さい」 「あなたは『沙紀』さんね。 このヘアスタイル気に入りました。 またよろしくね!」 「はい、ありがとうございます!」 そのままお客様を美容室の外までお見送りして、最後に深くお辞儀をしながら挨拶をした。 「ありがとうございました! またお待ちしております!」 すると、女の子が小さい手を大きく振りながら、 「お姉ちゃん、バイバイ!」 「バイバイ! また来てね!」 お客様は私の方を見て軽くお辞儀すると、女の子の小さい手をそっとつないた。そして新しいヘアスタイルを風になびかせながら、クリスマスで賑わう青山の街へと歩いて行った。 「きっとあの子も、キラキラしたおもちゃ屋さんに行くんだろうなぁ」 笑いながら歩く2人の後ろ姿が、母と手を繋いでおもちゃ屋へ行ったあの頃の自分の姿と重なって見えた。 すると、そのタイミングでポケットの中にあるスマホが着信で震えた。それは家にいる母からのLINEだった。 『サキ、青山でケーキ買ってきて!』 私は呆れて、 「まったくママは! 私が仕事終わるころには、ケーキ屋さんなんてとっくに閉まってるし!」 とスマホに向かって愚痴を言いながら『無理』というスタンプを押し、それからクスッと笑った。 これから青山の街に、いや世界中の街にもうすぐクリスマスが訪れる。年末までまだまだ忙しいけれど、なんだかワクワクするこの季節が私は1番好きだ。 美容室のドアが開き、アシスタントがまた私に声をかけてきた。 「沙紀さぁん、次のお客様をお願いしまぁす!」 「はぁい、今行きまぁす。 ふぅ寒いっ!」 師走の風で冷え切った体を両手で摩りながら、私はまた慌しい『Red Clip』の中へと入って行った。 「いらっしゃいませ、お待たせしました! こちらへどうぞ!」 あの時の封筒に入れた破片(エクステ)は 今でも机の引き出しの中に 大切に 大切に しまってある 終わり
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