いついかなるときも

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* * * 一人では多すぎると思われた菓子は、二人で食べると少なく感じるほどだった。 向かい合い食べている間は、確かに想いがかよっていると思われた。これほど充足したときは、どれくらいぶりだろうか? 味わうことの禁忌を味わいながら、確かに幸せだった。 ──だから、アリオワが遠慮がちに下がろうとしたときに私は告げた。 「近衛隊長、これからも私を守ってちょうだい。あなたは私の近衛隊長だわ。そうでしょう?」 そうだ、彼は国の近衛隊長なのだ。 国を背負う私の近衛隊長なのだ。 私の──それだけは、譲らない。 「……もちろんです、皇女殿下。この命をかけてお守りさせて頂きます」 アリオワの言葉や表情には迷いはなかった。 ならば、私たちは通じ合っている。 「ありがとう。──年末に即位が決まったのよ。私はこの国に命を捧げるわ」 心はアリオワ、あなたに捧げる。──言わないけれど、でも。 「あなたも、同じでしょう?」 確信をもって問いかける。 アリオワは力強い眼差しをもって、頷いてくれた。 「もちろんです。それが私の人生」 ならば、私は孤独ではないのだ。 菓子を渡されたときの煩悶が嘘のように消えている。この、共にすごせたときを私は生涯忘れないだろう。 「ありがとう。──下がっていいわ。これから忙しくなるわよ」 「かしこまりました。失礼致します、皇女殿下にもお身体何とぞご自愛のほどを」 「ええ」 アリオワが部屋を退室してゆく。それを見送ると、部屋には菓子の残り香がほのかに漂い、余韻を残していた。 次の政務が待っている。分かっている。 ただ、今は少しだけ余韻を感じていたい。アリオワの足音が聞こえなくなったら窓を開けて残り香を消そう。そうして、私は私に戻るのだ。
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