いついかなるときも

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「……私は! いついかなるときも、いかなる場合にも、いかなるものにも、いかなる訳があったとしても!」 緊張と高揚。バルコニーに立ち、集まった民衆を見下ろしながら私は次の言葉のために息を吸い込み、喉を開いてお腹から響く声を発せられるように気合いを入れた。 「──害悪は排除する!」 その一言に沸き上がる観衆。 何度となく宣言してきた言葉だけれど、その言葉によって多くの民を導いてきた自負がある。 ──北方の公国、土地は豊かとは言えず、代わりに鉱物資源が豊富なことから貿易で栄えている、その国の皇女であり後継者でもある私が、病がちの父に代わり執政に携わるようになったのは、今から四年前の十七歳の頃からだった。 当時、国は周辺国から鉱物資源を狙われて危機的状況にあった。 私は軍を強化して、周辺国と戦うことも辞さずに、なおかつ対話を続けて──危うさから均衡を保った。 そのとき、宣言したのだ。 「害悪は排除する」と。 私は若さを謳歌することなく、父が苦慮しながら守ってきた国を自らも守り、発展させるために国を統率する道を選んだ。 豊富な鉱物資源も有限だ。採掘には制限をかけ、価格はそれに見合うように、けれど摩擦を起こさない範囲で上げて、徴収する税は不満を抱かせないぎりぎりの範囲に留めて、物価を安定させるために陸路を整えて外交を続け、──常に甘く見られないように堂々たる振る舞いを見せてきた。 民は私をこう呼んだ。 「鋼の皇女」と。 それでも構わない。心なき鋼に喩えられても傷つく余裕もなかった。 それに、私には彼がいる。 幼い頃より共に学び、時には遊び、苦楽を共にしてきた同志が。 今は近衛隊長として私を支えてくれている、彼が。 アリオワ──私より二歳歳上の彼は、私が政治に携わることを決意したと同時に近衛隊に入り、厳しい鍛錬に耐えて隊長にまで上り詰めた。 それは──愛なのか。 女人として生きることを切り捨ててきた私には、分かりかねた。 ただ、アリオワが傍にいると私は強くなる。 鋼であることに苦しみを感じなくなる──。
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