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ある男の生きざま
寡黙な、気がつけばそこに居た、そんな感じの人だった。
こよなく酒を愛し、他に楽しみもない。
ひょうひょうと、でも損しないように哀愁も纏いつつ、ずる賢い印象があった。
行事や奉仕も、美味しいものや貰い物がなければ体調不良。
参加費が要るものは「貸してください」と、他の人に頼む。そしてお金ではなく、自分が貰った物で返す。
服があまりにも擦りきれている為、不憫に思った人がくれたズボンも、別の人に売りつけていた。
手元にお金がなくなると、暴言をはき暴れて手に負えず、入院する生活を繰り返す。
「どうしようもないね。」
「この人の生き方だよ。」
主治医に相談したら、そう言われた。
関われば関わる程、その度に裏切られる気がしてくる。
そんな人でも、昔は結婚して娘が居た。
ただ、嫁も娘も捨てて、右だったか左だったかの活動にのめり込んでいたと、聞いたことがある。
病気を発症して、それからここに来るまでは病院にいた。
今では考えられないくらい、長い入院生活。◯十年。
想像もつかない。
数年関わったからと言って、変わるわけもない。
メンタル強化にもってこいの人だった。
ある朝、彼は人生を自ら終わらせた。
彼の部屋からは無数のメモ書き。
恨みつらみ、自分の将来の心配、そして、後悔。
遺書はなかった。
激動の時代を過ごしてきた彼の事を理解するには、経験が足りず想像も乏しい。
そうするしかなかった、と言われたら何も言い返せない。
なぜ寄り添えなかったのか?と問われても、力不足としか言い訳できない。
ただ許せないのは、朝の当番が新人の二十歳の女の子だった事。
朝御飯を食べに来ない人を呼びに、部屋まで訪れ、倒れている彼を発見した。
血だらけの彼を。
前の夜に、朝の当番が誰か分かるように張り出してある。そして彼はいつもチェックしていた。
彼の望みだったのか意地の悪い冗談だったのか分からない。
けど、狙った感は否めない。
彼女はショックを受け、仕事を続けることができなくなった。
彼を止められなかったとしても、せめて担当である自分のときにして欲しかったと思うのは、我が儘だろうか?
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