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Ⅷ
カランカラン、とギャラリーの扉につけたベルが鳴る。振り向くと、彼女が立っていた。彼女の足元には、3歳になる僕らの息子、ヘンリーが彼女のワンピースをぎゅっと握って立っている。
「またその絵を見ていたの?」
くすくすと笑いながら、ステラが俺に近づいてくる。
「だってこの絵は、俺たちの始まりの絵だからさ。ヘンリー、見てごらん?」
俺はヘンリーを抱き上げて、そっと絵に触らせる。わあ、と声を上げてヘンリーは星に手を伸ばした。
すい、と絵の中を流れ星が駆ける。
「パパ、ママ、流れ星! 絵の中のお星さまが動いた!」
興奮するヘンリーの頭を撫でながら、ステラは背伸びして俺の頬にキスをした。
「パパにはそう見えて、ママがそれを描いたのよ。素敵でしょう?」
「うん、ぼくも『ほしあつめのがか』になりたい!」
無邪気なヘンリーの言葉に、俺たちは顔を見合わせて微笑んだ。
「じゃあまずは、スケッチブックと絵の具を買わなきゃな。クリスマスプレゼントだ」
そっとヘンリーを床に下ろすと、
「ほんと!? やったあ!」
ぴょんぴょん飛び跳ねて、ギャラリーの出口へと走り出した。
「早く行こう! パパ、ママ!」
俺とステラもヘンリーに続き、ギャラリーを出る。
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