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 この世界では、魔法が使えて当たり前。皆1人1つ、魔法を持って生まれる。  空を飛ぶ魔法、指先から火を出す魔法、念力のように物を動かす魔法……人によって使える魔法はさまざまだ。  そして魔法によって、仕事が決まる。要するに、生まれつき就ける仕事が決まっているようなものだ。  俺の魔法は『自分の感覚を共有させる』というものだった。  しかしこの魔法は、どの仕事にも必要とされなかった。労働事務所に求人の貼り紙を貼ったり、仕事の紹介を頼んだりするものの、先程のように蔑ろにされることの方が多い。 「生まれつき、使えない魔法の奴は死ねってか?」  唾を吐き捨てるように悪態をつく。  ヒイラギやポインセチアで飾られたガス灯が灯る大通りは、家族連れやカップルが楽しそうに歩いていた。  立ち並ぶ煉瓦造りの建物にはイルミネーションが施され、夕暮れの街できらきらと輝いている。  大きなガラスのショーウィンドウには、クリスマスツリーやプレゼントが華やかに並んでいた。立ち止まり、ガラスに映る自分の姿を見つめる。亡くなった父のお下がりの茶色のコート、ぼさぼさの金髪、くたびれたズボン、じっとこちらを見つめるルビー色の瞳。  クリスマスを目前に浮かれる街の景色には似合わない、冴えない姿にため息をつく。とぼとぼと歩き始めた、その時だった。
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