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「待って!」
突然肩をがっしりと後ろから掴まれる。
「おわっ、なんだ?」
振り向くと、ベレー帽を被った小柄な女が俺の肩を掴んでいた。背中の辺りまである長い三つ編みと、ワンピースの裾がゆらゆら揺れている。
そいつは顔を上げて俺をじっと見た。真っ先に黒縁の丸い眼鏡が目に入る。ずいぶん度が入っているらしく、顔の輪郭が歪んでいた。レンズの奥にコバルトブルーの瞳が見える。
鼻の上にはぽつぽつとそばかすが散らばっていた。星座みたいだな、とそれを見つめていると、
「あなた、アルバートさんよね? 労働事務所であなたの求人を見て声をかけたんだけど」
ずいっと顔を寄せて、彼女は説明する。なんだこいつ、とは思ったものの、求人を見たと言うことは仕事の依頼だろう。
「なんですか?」
「あたしは画家なんだけどね。あなたに仕事を頼みたくて」
画家の仕事に俺の魔法が役立つとも思えない。腑に落ちない顔をする俺に、彼女は斜め掛けの鞄から名刺を取り出した。
『星集めの画家 ステラ』
そこにはそう書かれていた。
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