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Ⅲ
「星集めの画家? なんだそれ?」
俺が首を傾げると、彼女はふふんと鼻で笑った。
「夜空を掬い取るの。素敵でしょう?」
ますます意味がわからない。眉間に皺を寄せて名刺を見つめる俺を見て、彼女は
「来て。口で説明するより見た方が早いからさ」
と、ぐいっと俺の手を引っ張った。そしてずんずん歩き始める。
「今が夕方の……5時か。あと1時間もすれば描けるはず」
細い路地に入り、入り組んだ住宅街の道を抜けた先に、ぽつんと小さなアトリエが建っていた。一見するとただの家のように見える。ただ普通の家とは違い、庭にいくつも池が作られていた。
扉を開けたそこには、所狭しとキャンバスが置かれていた。キャンバスはどれも濃紺や黒に塗り潰されている。
壁際に申し訳程度に置かれた小さな机の上には、絵の具やバケツや筆や齧りかけのりんごが散乱していた。机の隅に置かれたスケッチブックも、全てのページが黒い。
見慣れない光景にきょろきょろとあたりを見回していると、
「片付いてないところは見なくて良いの! こっちよ」
また手を引っ張られた。そのまま奥の扉を開け、庭に出る。
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