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もう少し、もう少しと言いながら身支度をする彼女を待って、結局いつも予定していた時間になんて出れやしないんだ。
「どうしてそんなに時間がかかるの?」
嫌味とかではなく、率直な疑問として一度彼女にそう尋ねたことがある。すると彼女もなんの悪気もなさそうに、満面の笑みでこう答えた。
「だって!せっかく好きな人と出かけるんだもん!少しでも可愛い自分でいたいじゃない?」
えへへとそう笑う彼女に、俺もついふっと口元が緩んだ。
何を言っているんだか。そんなに念入りにメイクをしなくても、これかあれかと洋服を選ばなくても、何をしたって何を着たって君は十分に可愛いのに。
そう思っていた。
けれどいつも言葉にはしない。
どうしても"恥ずかしい”という思いが勝った。
今思えば「可愛い」も「好き」も「愛してる」も、一度も満足に伝えたことはないかもしれない。
ーーーー言えば良かった。きちんと言葉にすれば良かった。
君が死ぬ前に。
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