文学的帰納法

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「はあ……」  もう少しで賞?  なんだその、小学生みたいなネーミングセンスは。 「いわゆる敗者復活戦的なあれですかね」 「さすがです。その通り。この基準に従って、評価してもらいます」  そう言いながら茂木先生が、またデスクから別の紙を取り出して俺に見せる。  質の悪い再生紙に印刷されていたのは、一つの無機質な表。  左上のマスに「作品名」という文字。その横に、「キャラクター」「世界観」「ストーリー」「描写」などの言葉が並んでいる。 「やり方は簡単です。一番左の列に作品名を好きな順番で書いて、それぞれの項目に点数をつけていき、《もう少しで賞》だと判断した作品のタイトルの横に二重丸をつけてください」 「あの、これなんのためにやるんですか?」  自分でまともな小説を仕上げることすらままならない俺が、なんで偉そうに他人の作品を品評しなくちゃいけないんだ。 「ルールが一つあります」    俺の声が全く聞こえていないかのように、少しもったいぶった口調で続ける茂木先生。 「《もう少しで賞》を一つ決めたあと、もしその作品と合計得点が三点以内の作品があれば、それも《もう少しで賞》に含めることです」 「はあ……」 「だって、『もう少し』で《もう少しで賞》なんでしょう? それはもう、《もう少しで賞》でしょう」  出来の悪いダジャレのような言葉に若干苛立ちつつ。  言われてみれば、納得するところはあると感じていた。  同じ落選作品とは言っても、全部が全部横並びなわけではない。  例えば、いつも「もう少しなのに」と悔しそうな顔をする浅芽の作品と、審査員から見向きもされない俺の作品。  受賞に届いていないという点は同じでも、実際のレベルとしては全く違うところにあるだろう。 「では、よろしくお願いしますね。退部届はその審査結果と一緒に受け取ります」 「はい……失礼しました」  入り口で会釈して、そこそこ重たくなったカバンを肩にかけ、薄暗い校舎を後にした。  
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