文学的帰納法

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 最後に残った一本というのはもちろん、俺の作品だ。  部員の半分からコメディと間違えられたホラー小説。  浅芽の作品のように文体が美しいわけでもなく、森本の作品のように世界観が精巧に作られているわけでもなく、山田の作品のようにストーリー構成が巧みなわけでもなく、木村の作品のように個性的なキャラクターが登場するわけでもない。  全ての項目に「一点」をつけて、合計得点を記入した。  記入したところで、気づいてしまった。  九位の木村の作品と、三点差しかないことに。  つまり、俺の作品も、《もう少しで賞》となったというわけだ。 「いや、そんなはず……」    どうする?  俺の作品の点数をもう少し下げるか?   いやいや、既に全てが最低点だ。  なら、木村の作品の点数をどこか上げるか?  申し訳ないが、率直な感想で言えば、今の点数から上げるべきところは見つからない。 「はあ……」    観念した俺は、自作タイトルの左側に《もう少しで賞》の二重丸をつけた。  何気なく視線を上下に動かし、縦に十個並んだ二重丸を網膜に写しとる。  途端、目の前の景色が変わった気がした。
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