文学的帰納法

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 文芸部で活動を始めてからずっと、北極星のような手の届かない存在として見えていた、「受賞」という概念。  今だって途方もなく高い位置にあることには変わりないけれども、俺の足元からそこまでに、何百段にも渡る段差の細かい階段が続いているように思えた。  上りきるのに何日何ヶ月、いや何年かかるかわからない階段。  だけど、一歩一歩進めば、いつかはあそこまでたどり着けるかもしれない。  コンテスト受賞作にはもう少しだけ敵わない浅芽の作品にはもう少しだけ敵わない森本の作品にはもう少しだけ敵わない山田の作品にはもう少しだけ敵わない……木村の作品にはもう少しだけ敵わない俺の作品だって。  足りない要素を一つずつ補っていけば、日の目を見ることは不可能じゃないはずだ。  休み休みでもいい。ときどき転げ落ちながらでもいい。  もう少しだけ、やってみるか。  ふーっとため息をつき、茂木先生から受け取ったもう一枚の紙をカバンから取り出した。  不要になったそれをくしゃくしゃに縮めて、ゴミ箱に放り投げる。  退部届の良いところは、捨てるために罪悪感を必要としない点だ。
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