だって、たのしかったんだもん

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だって、たのしかったんだもん

あれから2日が経ち、俺はゲイボルグの改修よりサリーの誕生日プレゼントを決める事を優先した。 なかなか良いプランを思いついたのだが、俺1人の力では難しい内容だ。 まずは、俺の専属デザイナーであるタツヤに協力を要請する。 「格闘タイプのサンプルボットをこんな感じに仕上げたいんだけど、できるか?」 画像を添付したメールを送信すると、すぐに返信が来た。 「御安い御用だけど、格闘タイプに変えるのか?それに、お前は白夜叉神のレイナファンじゃなかったっけ?」 「まぁ、細かいことは気にしないで!○日までにできるか?」 「まぁまぁ急だなぁ!俺だって、暇じゃあないんだよ?」 「1000円でどうよ?」 「任せとけ、最高の仕上がりにしてやる!」 何事も金で解決するのが、一番手っ取り早い。 さて、そうなると格納庫を拡張しなきゃダメなんだが・・・BPが足りない。 誕生日までには貯めれそうだし、これ以上ゲームに金を使いたくないのでマッチ回して稼ぐとしよう。 どちらにせよ、今のゲイボルグのデータは残して置きたいので新機の為にも拡張は必要だ。 さて、サリーは今日もログインしてないか・・・女の子のアレってツラい人は数日ツラいらしいからな。 なんて思っていたら、噂をすればナンとやらサリーがログインし招待がきた。 「ハロハロ~私に会えなくて寂しさで瀕死の重傷じゃないかね?」 元気そうで、何よりだ。 「たかが2日で寂しいなんて思うかよ」 チラッとフレンド欄を見ると、猫さんが待機中なのを発見。 「今日は3on3やろーぜ。フレンド誘うから、一応ボイスチェンジするか?」 「ん~別に良いかなぁ~なんか、声だけで私だって特定されなさそうだし。※ハイライトに何回かピックアップされてたけど、動きで私だって気づいた人もいなさそうだし。はぁ~時の流れは残酷よね。こんな美少女バトラーもたった2年で忘れ去られる訳よ?」 ※ハイライト 数日間のバトルで派手な撃破シーン等があると数点ピックアップされる。所属サーバーによって内容は異なる。 俺はサリーの戯言を無視して猫さんを招待。 猫の着ぐるみを着た顔の濃いオッサンのシュールなアバターが毛繕いのエモートをして登場した。 「猫さん、宜しくお願いします」 「ハーイ!宜しくお願いします!」 「って、人の話をキケー!」 サリーのアバターが地団駄を踏んでいる。サブ垢なのに、随分沢山エモート持ってるなぁ。 「初めまして!ハルオさんのパートナーさんですよね?」 「初めまして、パートナーじゃないですよぉ」 いつもなら、だおキャラ出現する場面だが流石にわきまえたか。 「そうなんですね!最近、いつも一緒にいるのでパートナーかと思ってました!それにしても、女性だったんですね。驚きです!」 観戦許可設定をONにしていると、フレンド同士で試合観戦ができる。 猫さんは俺たちのマッチを数回観戦していたそうだ。 パートナーになると通常は1人でしか使えない演習場に2人で入って模擬戦をしたり一緒にエイム練習したりもできる。 あとは、贈り物の枠がフレンドより幅広くなるんだったかな? ちなみに、俺のパートナーは非戦闘員になってしまったタツヤのままだ。 「では、改めまして猫ライダーと申します!猫って呼んで下さい!」 「サリーです!ハルオの性奴隷ですが、宜しくお願いします」 え?何いってんのコイツ?てか、意味わかってる? 「そういう関係なんですか!?」 「そんな訳、ないでしょ!本気にしないで下さいよ、猫さん!」 「へへへっ てへぺろ」 茶番劇が長くなったが、そろそろ出撃しよう。 「じゃあ、行きましょう」 「あ!待って下さい、ハルオさん1人フレンド誘っても良いですか?」 「俺は構わないんですが・・・サリーは大丈夫か?」 「全然OK!」 現れたのは、ウサギの着ぐるみをきた黒人女性のアバター・・・類は友を呼ぶってやつか。 「こんばんは~猫ライダーの肉便器、ノンちゃんでーす!宜しくぅ」 何これ?こういう自己紹介、流行ってるの? 「・・・ノンちゃん、やめてもらえますか?」 「やだぁー!猫さん、ジョークよジョーク」 「ちょいハルオ、肉便器ってナニ?」 いや、サリーちゃん性奴隷は知ってて肉便器わからないなんてコトある? 元気な感じの女性バトラーか、猫さんと同じ陽キャラっぽいな。 軽い自己紹介を済ませ、今度こそ出撃! ノンちゃんの機体は・・・レッドラビット、その名の通り全体が赤く、差し色にピンクと白が入っているウサギっぽい軽量タイプのボットだ。 c3329c5d-2040-4043-96ea-02e6147c60a8 アイカメラは赤の2眼タイプ、フンジャッターのように頭部左右にウサギの耳を思わせるセンサーがついている。 だが、注目すべきは脚だ。 「レッドラビットの脚って、リリース当初に事前登録特典で配られた軽量タイプの差し替えパーツ※逆間接ですよね?俺も持ってますよ!」 ※膝の間接が通常とは逆向きになっている脚 太股のパーツがやや大振りで、膝下は細く足はヒールが高い女性的なデザインにカスタマイズされている。 「お~ハルオ殿、ならば良い事を教えましょう!地味に、強化補正されてますぞ」 逆間接はジャンプがちょっと高くなり、通常速度が軽量タイプの標準脚より遅くて僅かに武装容量がアップするけど耐久値が下がるって感じだったかな?後で確認してみよう。 戦闘が始まって、まず驚かされたのが軽快なフットワークだった。 通常、ブースター中に曲がろうとすると弧を描くのだがレッドラビットは直角に動き回る! 恐らく、ブースター出力を低めに設定してるのだろうが左右の動きに緩急があるのが不思議だ。 武器は中口径アサルトライフルと・・・人参?何かの武器を人参スキンにしているが、流石にわからない。 バトル中はアサルトライフルと粘着爆弾を使って次々と敵機を撃破していく! 粘着爆弾は壁や地面にくっつけると、時間経過で爆弾するので罠としても使える。 爆弾を仕掛けた場所に誘き寄せたり、逆に爆弾を仕掛けた場所に追い込んだりと多彩な戦略を披露する・・・かなり上手い! 「ノンちゃん、やりますねぇ!撃破数競争しよ!」 「サリーちゃんもやりますねぇ~いいよー!」 ガンガン撃破していく女性バトラー2人に対し男性陣は暇をもて余していた。 「凄いですね、ノンちゃん」 「サリーちゃんも、ヤバいですねー!」 3試合やったが、3試合同点で決着がつかない。 「ノンちゃーん!もう、タイマンしよー!絶対楽しいよー!」 「う~ん、良いけど3セットマッチでよいかな!?」 「全然OK、いこー!」 俺と猫さんは蚊帳の外で、とりあえず観戦することにした。 「・・・流石にサリーちゃんも相手が悪いですかねー!」 「確かにノンちゃんは上手いですが、サリーは強いですよ?」 「ハルオさん、ノンちゃんはアリーナのバトラーランク レッドですよー!」 Aレッドバトラー!?どうりで上手い訳だ。これは、良い勝負が期待できそうだが・・・俺はサリーが勝つと思う! 「さぁ、試合が始まりましたー!実況は私、猫ライダーと」 「ハルオでお送りします!」 「ステージはランダム、1セット目は市街地です!ハルオさん、ぶっちゃけこの場合はどちらが有利ですかー!?」 「はい、ぶっちゃけレッドラビットが有利です!粘着爆弾を要所に仕掛けるだけでも、かなりプレッシャーを与えられるかと!」 レッドラビットは不規則な動きをする為、サリーの正解な射撃もかすめる程度。 「あの、不規則な動き・・・わかってきたぞ」 「ハルオさん、解説お願いします!」 「恐らく、右ブースターは最低数値で左ブースターはディフォルトに近い設定です。左に動く時(右ブースター)の移動は短く小刻みですが、右に動く時(左ブースター)の移動距離は長めですよね?」 「それでは、直進する時に斜めに動いてしまうのでは!?」 「ブースターアイコンを左右別々に設定し、右を長押し左を1タップみたいな感じの複雑な操作をしていると、考えられます。たぶん、7~8本指でプレイしてるんじゃないですかね。てか、猫さんは知ってるんでしょ?」 「いやー!軽量タイプは使うつもりも無いので、実は聞いた事も無いですねー!でも、確か8本指でプレイしてますよー!」 軽量タイプでサリーと同じ8本指か・・・やはり、アイコンの数を増やしてるのだろう。 対戦ゲームが強い人は相手の動きを読むのが上手い。サリーは反応速度もヤバいが、それに加えて読みも深い。 だったら、読めない動きをすれば良いじゃない? と、いうのがノンちゃんの思考だろう。左右のブーストで緩急をつけ縦横無尽に動き回る・・・対応できるか、サリー!? 徐々に動きに対応してきたサリーだが、詰めたいタイミングで仕掛けられていた爆弾に阻まれ耐久値を削られていく。 中距離射撃→当たらない→詰める→逃げながら仕掛けた爆弾に阻まれる→怯んだ所をアサルトライフルで削られる。 レッドラビット→抹茶丸 マジか・・・サリーが押されてるなんて、でもまだチャンスは残ってる! 2セット目のステージが入り組んだつくりじゃなければ爆弾は防ぎやすくなる。 2セット目のステージは、山か・・・微妙だな。沢、滝、渓谷がある山中でのバトルになる。遮蔽物は岩、木、小屋等で高低差が激しい。 市街地ほどじゃないが、距離を詰めたい格闘タイプの方がまだ不利か? だが、森林地帯だと粘着爆弾は木にしか仕掛けられない・・・木を爆破すれば、当たり前だが木が倒れて障害物になってしまう。 機動力重視のレッドラビットからしてみれば、動き辛くなるから粘着爆弾も多用できなくなるかも知れない。 攻め手が減る分、市街地よりは有利かも? 木の間を縫うように動き回りながら弾幕を張るレッドラビットに対し、抹茶丸はダメージを受けながらも近くの小屋に逃げ込み持ちこたえる。 やはり、粘着爆弾は使ってこない・・・が、防戦一方だ! 木屋も壊されそうだし、大丈夫なのか!? ボッバトの遮蔽物は破壊可能なモノもあるので、ずっと遮蔽物を盾にし続ける事ができない場合もある。 小屋を破壊すれば、遮蔽が無くなり万事休すだ。 ノンちゃんも恐らく、そう考えたのだろう。標準を小屋に向けて銃撃を開始した。 小屋が破壊され残骸が舞う中、姿が露になった抹茶丸はしゃがんだ状態でバーストライフルを点射し、レッドラビットを銃撃! 飛び散る残骸の隙間から放たれた弾丸がレッドラビットの右腕を破壊した! まさか、わざと破壊させるように仕向けて、こっちの射線が通る瞬間を狙ってたのか!?なんちゅう集中力とエイム力だ・・・良し、これでアサルトライフルは使えない! バランスが崩れたレッドラビットは、持ち味である素早く不規則な動きも封じられた! 一気に間合いを詰めた抹茶丸のボディが炎の如く赤く光り、格闘タイプの近接強化スキルを発動し刀を抜く! 正直、これは勝ったと思った。 しかし、甘かった・・・懐に飛び込む刹那、左腕で構えたレッドラビットの人参が火を吹いた! あの人参は・・・※ショットガンだったのか! ※ショットガン 多数の小型弾丸を散開発射する銃 至近距離であればあるほど威力が高い 一撃でボディが破壊された抹茶丸、首を()ねとばされたレッドラビット・・・判定は!? レッドラビット→抹茶丸 嘘だろ、サリーが負けるなんて・・・俺は言葉を失い呆然としていた。 しかし、対戦ルームから戻ってきた当の本人は全く落ち込んでいる様子は無く、むしろ嬉しそうだった。 「ちょっと食らいすぎてたかー!ノンちゃん、めちゃ強い!フレンドになってよ!」 「サリーちゃんもヤバい強かったよ!でも、ゴメンね・・・私、今日で引退なんだ。出産が近づいてるし、これから子育てで忙しくなるから、さ」 「そうなんだ・・・赤ちゃん、いっぱい愛してあげてね!」 「うん、最後に良いバトルが出来て良かった!ありがとう、サリーちゃん」 ノンちゃんと猫さんが抜け、俺とサリー2人きりになった。 「残念だなぁ~ノンちゃんとは良いライバルになれると思ったのに!」 「負けたのに、なんか嬉しそうだな?」 「だって、たのしかったんだもん!勿論、負けて悔しい気持ちもあったけど・・・世の中、まだまだ強い人がいるんだろうなって思うとワクワクしない?」 俺は戦闘民族じゃないから、わからないが・・・サリーにとって、有意義な時間だったのなら何よりだ。
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