だって、うれしいんだもん

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だって、うれしいんだもん

サリーの誕生日、当日 仕事から帰った俺は、飯も食わずにボッバトにログインした。 サリーは既にログインしてるな・・・さて、タツヤから送られてきた機体データをコピーして格納庫2にロードして、と。 アリーナモードプレイ中か、始まったばかりだし観戦するか。 ありゃりゃ、対戦相手が可哀想なくらいの圧勝だ。 やっぱ強いなぁ~こんな強くても負けるんだから、世の中広いなぁ。 試合終了後、俺はサリーに招待を送る。 なかなか来ないな・・・そういえば、俺から誘うのって初めてか? 「ヘロォ~」 暫くして、サリーのアバターが手を振るエモートをしながら入ってきた。 「おう、まずは誕生日おめでとう」 「はっはわわわわわわわ」 今度は顔を手で覆うようなエモートをしてる。恥ずかしい的な? なんか、いつもと違う反応だから調子狂うな。 「どうした?なんか、変だぞ?」 僅かな静寂の後、サリーが御立腹気味の声で答えた。 「変~?こっちは、翌々考えたら出会って間もない人に誕生日のおねだりなんかしちゃって、甘えすぎちゃったかなぁ~悪いことしちゃったかなぁ~とか、スルーされて普通な感じなのも嫌だなぁ~とか、もきゃもきゃしながら待ってた乙女心を変とか言いやがるなら、御天道様が黙っててもアタシが黙っちゃあいないよ!」 もきゃもきゃとか、全く意味わからんが照れくさくなってたのか。図太い神経だけじゃなく、ちゃんと普通の神経もあることが確認できて本当に良かった。 「まぁ、今更だろ?ちゃんとプレゼントも用意したから」 「ほぅ、何を妾に捧げると言うのかね?」 結局、いつもの調子に戻るのね。まぁ、良いけど。 「まず、いま使ってる抹茶丸の機体データを送ってくれ」 「ふん?・・・送ったお」 タツヤに頼んで作って貰った機体データを外部のみダウンロードする。 うっかり、内部もダウンロードすると設定が変わってしまうから要注意だ。 「良し、データ送るから開いてみて」 「んん?え・・・何これ、ハルオが作ったの!?」 サリーにプレゼントしたモノ、それはエディットで抹茶丸の容姿を変更した新機体だ。 内部はかなり弄ってあると思うが、今までの抹茶丸の見た目は格闘タイプのサンプルボットを緑色にしただけで、かーなーりダサかった。 そこで、抹茶丸の見た目を和風格闘タイプにデザインチェンジしたのだ。 578de02e-8d60-4da5-b2ce-3e7c52c2890f 頭飾りの立物は金色の三日月、甲冑のデザインは黒武者丸を参考にした。 三日月を採用した理由は、俺たちのサーバーが日本・東北サーバーなので縁のある武将である伊達政宗から。 伊達政宗と言えば、甲冑は黒だが五月人形なんかだと、緑とか青、金色なんかもあるので色は抹茶丸のイメージ通りメインカラーは抹茶っぽい緑色で要所の差し色は黒にした。 タツヤ曰く、甲冑はスキンが無いのでエディットアプリで地道に形状を変化させグラフィックに隙間ができないようにかなり微調整したとの事・・・お疲れ様です! フェイスガードはシンプルなマスクタイプ、アイカメラはゴーグルタイプでオレンジ色に光る。 面頬もつけたかったが抹茶丸は黒武者丸よりシンプルな印象にしたかったので、この設定にした。 俺のイメージを形にしてくれたのはタツヤだが、デザインとか資料作成はあくまで俺! なので誰がなんと言おうと、俺の自信作・・・その名も真 抹茶丸! 「外部データのみ変更してるから、操作に違和感は無いはずだが・・・念の為に演習場で確認・・・」 「ありがとう!」 食い気味のありがとう、話聞けよと思いながらも喜んで貰えて良かった。 「でも、流石にこの機体でプレイしてたら私だって気づく人もいるんじゃない?」 「プロフに『黒武者丸のサリナさんに憧れてます』とか書いとけば大丈夫じゃね?」 「なんか、適当くさいなぁ~まぁ、使うけど!」 「とりあえず、演習場で動かしてこいよ。待ってるから」 「・・・こんな素敵なプレゼント貰えるなんて、思ってなかった。お礼したい!」 「ん?礼なんかいらねーぞ。見返り期待して作ったわけじゃねぇし、な」 とは言いながらも、お礼が何かちょっと気になる。 「私の大切なモノ・・・あげる」 「んっっぶふぁあぁぁぁー!?」 飲みかけていた缶チューハイを吹き出し、むせ返ってしまった! 「んっがぐっふぐふっ・・・そういうのは、大切にしろ!だいたい、会ったりとかはマズイ・・・そもそも、まだ子供だろ!?アカーン!」 「パートナー枠をハルオに贈呈しよう!」 パートナー枠? あぁ、そういうコトね。確かに、パートナー枠は1つしかないから大切かもね。 「あ、ありがとうございます。身に余る光栄です」 と、言いながらタツヤに「お前、どうせ戦闘しないからパートナー破棄するわ」と、メールを送りコッソリとパートナー枠を空ける。 すぐにタツヤから返信が来た。 「構わんぞ~ってか、例の機体を誰かにプレゼントするんだろ?新パートナーはそいつか。いや、待て・・・まさか、女じゃなかろうな?だとしたら、それは裏切りに他ならない!認めん、俺は断じて認めんゾォ!」 無視してサリーのパートナー申請を了承し、2人で演習場に入った。 「うんうん!操作に違和感無し、むしろ何となく動かしやすい気がする!」 「そいつは良かった。なら、いっちょ新機体でやりにいきますか?」 「へへへっ、せっかくパートナーになったんだからぁ~他にやること、あ・る・で・しょ?」 無駄にセクシーな声色使っておっしゃいますが・・・まさか。 「まさか、模擬戦でございますか?」 「いっえぇーす!」 それから、小1時間ほど真抹茶丸に撃破されまくった。 「姫、はしゃぎすぎでございます!じぃやは、限界でございますぅ!」 「だって、うれしいんだもん!」 ようやく解放され、これからマッチ回すのはしんどいなぁ、と思っていたが・・・ 「じゃあ、名残惜しいけど今日はここまでね!本当にありがとう・・・」 「おう、じゃあまた明日な」 「・・・うん、また明日!」 それにしても、手も足も出なかったな。多少は上手くなってきた気がするんだが、相変わらず※レベチだわ。 ※レベルが違いすぎる。 あ~疲れた、飯食ってシャワー浴びたら今日はもう寝よう。 俺はボッバトからログアウトし、カップ麺に使うお湯を沸かす準備にとりかかった。 ボッバトからログアウトしたサリナは上機嫌だった。 「へへへっ・・・友達からプレゼントなんて、いつぶりかな?てか、ハルオって私に惚れてない?いや、惚れてはいないか?いや、あの尽くし様は惚れてるでしょ?」 そんな独り言をしている最中、病室に3回ノックが響いた。 「はーい!」 入ってきたのはサリナの姉、レイナだった。 「ゴメンね、遅くなっちゃって・・・あら、ずいぶんと上機嫌じゃない?」 入院してからは、周囲に気を遣った作り笑いしか見せなかった。 そんなサリナの偽り無い笑顔は、姉のレイナでも久しく見ていなかった。 「ん~ちょっとね!」 「元気そうで良かったわ。はい、これ誕生日プレゼント」 プレゼントの包装を剥ぎながら、サリナはレイナに問いかける。 「そういえば、検査結果どうだったの?最近、わりと快調なんだよね!病気、良くなってきてるよね?」 レイナは少しうつ向いたが、すぐに顔をあげて笑顔で答えた。 「えぇ、経過は良好よ」 ふと、レイナの視界にiPadが入った。 iPadにはボッバトのロビー画面に『ログアウトしました』の表示が映し出されたままだった。 「サリナ!?あなた、ボッバトやってたの?このゲームは身体に負担かかりやすいから、やらないって約束したじゃない!」 サリナはレイナから貰ったプレゼントの箱を払いのけ、声を荒げる。 「こんなところに何ヵ月もいて!他にナニしろって言うのさ!外にも出れなくて!中学の友達からもメール来なくなって!誰からも忘れられて!ろくに動けなくても私が私でいられるのは、お姉ちゃんたちが与えてくれたボッバトしかないじゃない!経過は良好?私にだって、お姉ちゃんの嘘くらい見抜けるよ?ねぇ、本当はどうなの・・・ねぇってば!」 沈黙の後、レイナは涙を浮かべながら重い口を開く。 「今のままだと、二十歳は迎えられない・・・そうよ」 泣き崩れるサリナを背中から抱きしめるレイナ・・・彼女もまた、涙で頬を濡らしてた。 「今、お医者さんたちも、私たちもサリナの病気を治す方法を懸命に探してるから!大丈夫だから、大丈夫だから・・・」 すすり泣きながら、サリナはレイナに懇願する。 「お姉ちゃん、お願い・・・私からボッバトだけは奪わないで・・・友達もできたの、プレゼントも貰ったの・・・だから!」 「・・・わかったわ。でも、長時間やらないようにしてね?」 「ありがとう・・・お姉ちゃん、プレゼント・・・ごめんなさい」 病室を後にしたレイナは、涙を拭い電話をかける。 「・・・サリナに虫がついたわ。今すぐ調べて。場合によっては排除する」 病室に1人残ったサリナはiPadを抱きしめ、涙ながらに呟いた。 「死にたくないよぉ・・・」 これは、大人になることのできない少女の物語である・・・
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