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メンバー集め編 参加します!
「今日から入ったバイトの橘コウタ君ね~加藤君、宜しく~」
女の子の※OJTは店長がやり、野郎は俺がやる謎の制度に毎回、苛立ちを覚える。
※On the Job Training 教育訓練のこと
背は俺より、ちょい低く前髪であまり目が見えない。
恋愛シュミレーションの主人公かよ?
「あ~加藤 ハルオです。よろしく」
「・・・宜しくお願いします」
声ちっちぇ~なぁ~大丈夫か、コイツ・・・待てよ、橘ってもしかしたら・・・俺の推しアルバイト、橘 ヨーコちゃんの弟か!?
「えっと、もしかしたら橘さんの弟さん?」
「・・・はい、姉からは加藤さんのこと伺ってます」
「なんて、伺ってるのかなぁ~」
「優しいけど仕事が遅い、と」
いや~ん!ヨーコちゃん、ちょっと冷たくない?普段から、俺に冷たい感じあるけど・・・へこむわ。
「姉に迷惑かけたくないので、しっかり教えて貰えると助かります」
イヤな感じだなぁ~最近の高校生って、みんなこんな感じ?
生意気、生意気、ナ・マ・イ・キィィィーー!
「言われなくても、しっかり教えるので御安心を・・・まず、売場を覚えて貰うのでついてきて」
売場を案内してると、コウタ君が急に足を止めた。
プラモデルコーナー・・・視線の先は、ボッバトの汎用タイプ型サンプルボットか?
ボッバトの人気はゲームというコンテンツに留まらず、多方面にメディアミックスされている。
ホビーもその1つだが、もしやコウタ君もボッバトやってるのかな?
「ボッバト、好きなの?」
俺が声を掛けると、我に返ったようにコウタ君はこちらを見た。
「べ、別に、そんなんじゃ・・・」
これは、好きなヤツの反応だ。追々、仲良くなれる・・・かも?
ヨーコちゃんの弟ということもあり、丁重に扱ったがポンコツでは無さそうなので心配ないだろう。
さぁ~て、今日もしっかり働いたしコンビニ寄ってから飯食ってシャワー浴びたらボッバトタイムだ!
コンビニに寄ると、もう少年ダンプ(週刊漫画雑誌)が出ている。なんか知らんが、たま~に早く出てること、あるよね?
缶チューハイと少年ダンプを買って、家路を急ぐ。
飯食ってシャワー浴びて、少年ダンプ読むとイン遅くなるか。
しかし、少年ダンプ読みたい!ならば、飯食いながら少年ダンプ読んで、シャワー浴びながら少年ダンプ読めばログイン遅くならないのでは?
これは・・・天才、爆☆誕
ん?アパートの前にスーツ姿のスタイリッシュなお姉さんが立ってるぞ?
住人の彼女かぁ~?つり上がったクールアイに、枠なしメガネでサラサラのロングヘアー・・・黒髪美人と言う言葉がぴったりだ。
レイナさんにそっくりだな~
チラ見、からの2度見・・・後退り、からの逃亡。
「ちょっと、待ちなさい!?」
動画で聞いた事がある、クールな感じのこの声は・・・間違い無くレイナさんだ!
ちょっっっっとー!?なんで、レイナさんがウチのアパートの前に居て、俺を追いかけてきてるのー!?
てか、何で俺は逃げてるのー!?
あ、夢か。
そもそも、ヨーコちゃんの弟とか夢っぽいもんな。
立ち止まると、ぼふっと何かが背中にぶつかってきた。
「いきなり、止まらないで下さい!っていうか、何で逃げたんです?何か、やましい事でもあるんですか!?」
振り向くと、メガネがズレたレイナさんがいる・・・御馳走かよ?
夢なら夢で好きにさせてもらおうじゃないか!
「ファンです。握手して下さい」
「・・・お断りします」
「いや、積年のファンです。お願いします」
「やだ、絶対やだ・・・何よ、積年のファンって?日本語おかしいし!」
今度は俺がレイナさんを追いかけ、レイナさんが逃げ回っている。
「いい加減にしろ!」
突然、男の怒鳴り声が響き・・・何かが頭にぶつかって意識が遠のいていく・・・俺は、死ぬのか!?
ボッバト、殺人事件!
ハッ!?
気がつくと、車の助手席に倒れこんでいる。なんか、高そうな車だ・・・てか、ここはどこ?
「あ、気がつきましたか?」
運転席を見ると、絵に描いたようなイケメンがこちらを心配そうに見つめている。
ちょっと遊ばせた髪、宝塚の男役の女優みたいな美青年だ。
頭を打ったせいか、自分でもチョット何言ってるのかわからない・・・宝塚の男役みたいな美青年って何よ?
「・・・誰だ、あんた?」
男は名刺を取りだし、丁寧に差し出した。
名刺には・・・株式会社SOL-NY オンラインゲーム部門担当 保瀬 青陽とある。
ホセ セイヨーって、確かボッバトの運営チームの1人でメディアに取り上げられる際によくインタビューなんかに答えてる人じゃなかったっけ?
てことは随分と若く見えるが、二十代後半か三十代前半くらいか・・・地位も名誉もある上に美形とか、神に与えられすぎじゃね?
「さっきは、すいませんでした・・・レイナさんが襲われていると勘違いしまして」
まぁ、その点に関しては嫌がってるのに握手を求めたから勘違いでも無いような・・・そんな事を思っていると、後部座席から咳払いが聞こえた。
振り向くと、レイナさんが座っている。
「・・・こちらこそ、すいませんでした。俺、レイナさんの大ファンで本人を前に浮き足立ってしまいました」
2人に頭を下げると、ホセさんが困ったような表情でレイナさんを見つめている。
「突然、押し掛けて・・・こちらこそ、すいませんでした。妹のフレンドがどんな人なのか、気になってしまって・・・」
えっ、怖っ!
これ、レイナさんだから許される(個人的見解)けど、例えばゲームフレンドの女性と下心無しで遊んでいるのにリアル彼氏が「俺の女と遊んでるヤツがどんなヤツか見に来たぜ」って現れるのと同じですよね?
てか、俺の住所とかどうやって調べたんですか?ボッバトのアカウントから特定したんですか?職権乱用じゃないですか?普通に怖いんですけど?
それより、ボッバト運営陣だから東京の本社勤務ですよね?東京から車で来たの?ヤベェ奴らじゃん!?
色々と口から出かかっている言葉はあるが、ここは飲み込んでクールに対応しよう。
「え~と、俺は確かにサリー・・・サリナさんと良く遊ばせて頂いてますが、あくまでも1ゲームフレンドとして仲良く遊んでるだけなのでレイナさんが心配するような事は何も無いと思います。勿論、サリー・・・サリナさんが本当は俺と遊びたくないとかって言うんならフレンド解消しますし。俺は・・・俺たちは、ただボッバトで遊びたいだけなんです。だから・・・」
「邪魔しないで、と?」
レイナさんの鋭い視線が痛い・・・が、ここは退いてはいけない場面だ。
「まぁ、そんな感じですかねぇ~」
弱っ!もっと、ビシッと言えないのかよ、俺!
「・・・連絡先、交換して貰えるかしら?」
「か、構いませんが・・・」
何となく、初めてサリーに会った時に言われた「監視対象」という言葉が頭を過る。
「何かあったら、連絡しますから。逆に何かあれば連絡下さい」
いまいち良くわからないし、思わぬシスコン姉ちゃんに目をつけられた感もあり恐怖を覚えるが・・・とりあえず、アパートに帰りたい。
ようやく解放された俺は、一目散にアパート目掛けてダッシュした。
「良かったのかい?病気のことを伝えなくて」
ホセは心配そうな顔でレイナを見つめる。
レイナはメガネを拭きながら、それに答えた。
「今は必要無いと判断しました。精々、楽しく遊べば良いわ。行きましょう」
アパートの前にコンビニで買った、缶チューハイと少年ダンプの入った袋が落ちている。
中を見ると、缶チューハイがへこんでいる・・・レイナさんに追いかけられている時か追いかけてる時に落としたのだろう。
そして、恐らくこれでホセに殴られ気を失った・・・と、言ったところか。
気を失うくらいの強打だったのに、大して頭に痛みは無い・・・丈夫な頭に生んでくれた両親に感謝だな。
それにしても、すっかり遅くなっちゃったな・・・サリーはもう、ログインしてるだろうか?
もしかしたら、ログアウトしているかも。
走ったせいで、汗が凄い・・・もしかしたら、明日は筋肉痛?休みで良かった。
シャワー浴びたいな、飯くいたいな、頭ではそう思っているのに体はiPadを操作している。
ログインすると、サリーは既に誰かとチームを組んで待機中だ。
招待が届いたので了承すると、猫さんとサリーのアバターが色々なエモートを繰り出し、意味不明な動きをしている。
「こんばんはー!ハルオさん、遅かったですね!」
「ハルオー!残業かぁ?残業する時は先に連絡してよねー!」
ふと、レイナさんと連絡先を交換した事が頭を過った。
「てか、連絡先とか知らねぇしぃ~2人で俺を待っててくれたの?」
「うん、猫さんに新しい抹茶丸を見せびらかしながら猥談して待ってたよ!」
「サリーさん、それを言うなら雑談ですよ?」
ヤバっ・・・何気に怖い思いした後だから、2人の陽キャぶりを見てると心から癒されて何故か涙ぐんでしまう。
「う、うぅ・・・ありがとう、2人ともありがとう」
「え、なんで泣いてるの?ハルオ、キモ!」
「感動するくらい嬉しいんですかー!?それはそうと、ハルオさん。サリーさんから重大発表があるんですよ」
キモって何だよ・・・まぁ、サリーの反応からするとレイナさんが俺の所に行くって話は聞いて無さそうだし泣いてる理由は伏せておこう。
それはともかく、重大発表とは?
パンパカパーン!と、派手なファンファーレを鳴らす猫&サリーのアバターに目を白黒させていると、小さく「せーの」と息を合わせる声かけが聞こえた。
「「クランバトルに参加しまーす!」」
ハモる猫&サリー、拍手エモートをする2人のアバター・・・クランバトルだと!?
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