ソレが俺の日常だった。

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ソレが俺の日常だった。

ぼちぼち閉店作業をしようかと時計を見て現時刻を確認するも、まだ少し早い。 アクビを我慢しながら、ふと髪の毛がいっそう乏しくなってきた肥満体型の店長に目を向ける。 ノートパソコンに映し出された新商品を見ながら、しきりに首を傾げている・・・なにやら、声を掛けて欲しそうだ。 「どうかしましたか、店長」 こちらを向いた店長の顔をよくよく見てみると、右の鼻穴から毛が飛び出している。 所謂、鼻毛びょ~ん状態。 それには触れず、店長の話に耳を傾ける事にした。 「これから入ってくる商品がさぁ~新しく始まる戦隊モノの変身セットなんだけど、デッカレンジャーってやつなんだよ~」 「デッカ?刑事と書いてデカじゃなくて、ですか?」 「ハルオく~ん、それは大昔にあったタイトルだよ~その名の通り、デッカレンジャーはデッカクなるヒーローなんだよ~」 いつも思うが、いちいち語尾を伸ばして喋るの何とかならないのだろうか? 伸ばすのは鼻毛だけにして欲しい。 そんな思いを飲み込みつつ、会話を続ける。 「戦隊モノなのに、ウルトラ的に?」 「そう、戦隊モノなのに~ウルトラ的に」 「売れ行きが心配って事ですか?」 「いや~売れ行きの心配より、商品の陳列が心配でさ~今までの商品の2倍くらいのサイズなんだよ~」 マジかぁ・・・売り場のスペース拡げなくちゃ陳列できないな。人気の無い玩具を一旦、倉庫に引いたりとかもしなくちゃ・・・ん?ちょっと待て!確か、商品の納期って明日の開店前じゃなかったか? 「まさか、今から?」 店長は満面の笑みを浮かべ答えた。 「うん~忘れてた~」 しっかり指示してくれよ・・・いや、納期チェックは数日前にしていたし気づかなかった俺にも責任はあるか? 思わず溜め息を漏らす俺の肩を店長はポンと叩いて言った。 「ハルオ君、鼻毛出てるよ」 「マジすか?店長も出てますよ」 結局、チーム鼻毛で1時間残業して1Kのアパートに帰宅・・・狭いアパートだがWi-Fi環境だけはしっかり整えてある。 コンビニ弁当をテーブルに置き「よっこいしょ」と言いながらソファーに座る。 テーブルの上に並んだチューハイの空き缶をそろそろ片付けなきゃ・・・なんて思いながら、割り箸を割って食事を開始。 ちなみに、弁当はレンジでチンしない派だ。弁当は温めなくても美味しく食べれるように工夫がしてある・・・と、母親が言っていたのが印象に残っているのが理由だ。 食事を終え、シャワー浴び、スウェットに着替えて時計を見る。残業のせいで、いつもよりインする時間が遅くなった。 iPadを操作し、アプリをタップ・・・おっと、ヘッドホンも忘れずにっと。 子供の頃からゲーム好きだが、ゲーミングチェアやゲーミングデスクは無い。ソファー&食事をするテーブルで充分だ。 ゲーミングと名のつくアイテムはヘッドホンのみ・・・エンジョイ勢の俺には、そこまで揃える必要は無い。 これから始めるのは、世界中で人気のオンラインゲーム『BOT BATTLER MOBILE』通称ボッバトと呼ばれている。 ロボットをカスタマイズし、様々な武装を駆使して戦う※FPSおよび※TPSバトルロイヤルオンラインゲームだ。 ※FPS ファーストパーソン・シューティングゲーム 自分が操作しているキャラクターの視点でプレイする。 ※TPS サードパーソン・シューティングゲーム 自分が操作するキャラクターの後方あたりからの視点でプレイする。 PC版は操作や設定が複雑すぎて手を出せなかったが、モバイル版は簡略化されているので俺みたいなスーファミ世代でも何とか遊べるのが魅力だ。 FPSとTPSをプレイ中でも切り替えられるのも嬉しい。 俺は基本的にTPSでプレイしている。 とは言っても、簡単なゲームでは無い。本気になってやればやるほど、難易度が増してくる。 ライフル使用時の反動制御とか、ブースターの出力調整・・・etc 何度も何度も演習場で反復練習したり、調整しなければならないので、慣れるまでは下手にいじるよりは初期設定のまま割りきって楽しむのも良いだろう。 初心者は※サンプルのボットで遊んでも充分に楽しめるし、中級者はバトルやミッションをこなして貯めたポイントを使って武器やパーツを購入し機体の強化に励む。 ※カスタマイズされていない最初から用意されているボット。 ちなみに、課金すればポイントを貯めて買うより早く武装を揃えられるが・・・俺はできるだけ課金しないようにしている。 また、専用アプリを使えば機体の見た目を変更できるのもプラモデルを改造する感覚に近く非常に楽しい。 勿論、エッジを効かせたデザインにしたからといっても攻撃力がアップするとか機体性能が向上する訳では無いので、戦闘をメインにするバトラーからすれば無駄な要素だとも言える。 だが、これも年に1回デザインコンテストがあり賞金まで出るのだから、やりこむ価値は充分にあるだろう。 リリース当初に一緒に始めた友人のタツヤは戦闘よりもコッチにハマってしまい、今では俺の専属デザイナーみたいになっている。 と、噂をすればナンとやら・・・画面にメールマーク✉️が表示された。 「お前が使ってるアサルトライフルのデザインを機体の雰囲気に合わせてライトグレーを基調にちょい白を入れてエッジきかせてみたんだが、どうよ?」 俺の愛機『ゲイボルグ』は白基調のエッジのきいた軽量タイプのボットだ。 ちなみに、ゲイボルグとはケルト神話のクー・フーリンが使う槍の名前で諸説ある中でも稲妻のような速さで敵を貫くというのが気に入って命名した。 ゲイボルグと聞くと、某アニメを連想したら赤だろうが俺は某RPGに登場するクー・フーリンの鎧をイメージして白と青にしている。 頭部、胸は前方、肩は上向きに伸びた三角推状で全体的に細身、尖った部分が多く、各パーツが槍先をイメージしたデザインとなっている。※アイカメラはライトブルーのゴーグルタイプだ。 6770bd86-a69b-4363-a31f-b13ffde4fbb2 ※顔パーツの目にあたる部分。FPS時はカメラがある箇所からの視点になる。 「いいねぇ!やっぱ、武器は機体の色より濃いのがカッケーわ!銃口の白い装飾も銃剣みたいでイカしてる!」 そう返信すると、すぐにメールが返ってきた。 「気に入っていただけて、嬉しい限り!で、こちらの商品なんですが・・・おいくらでお買い上げ頂けますでしょうか?」 金とるんかーい! ってのは、いつもの事で・・・これも俺が極力課金しない理由の1つだ。 「う~ん、じゃあ300円でどうよ?」 「毎度あり!データ送るわ」 「タツヤ、たまには戦闘もしないか?2on2やろーぜ?」 「あ~いつも言ってるけど、俺は自分の機体が破損するのを見ると胸が張り裂けそうになるのよ。戦闘が終われば、元通りなのはわかるけど丹精こめて仕上げたボットをわざわざ可哀想な姿にしようなんて思う訳が無い!」 「被弾しなきゃ良いんじゃね?」 「ハルオ・・・お前、天才か?・・・って、バカー!俺のバトラーランクはいまだにホワイトなんだよ!できる訳ねぇ~だろ!じゃ、コンテスト用の機体作ってる最中だから、バイナラ!」 プレイヤーは戦績によってバトラーランクという格付けがされる。 スタート時点は無色、ホワイト、オレンジ、ブルー、イエロー、グリーン、ブラウン、ブラックの順に上がっていく。 ブラックランクに到達し、更に優秀な戦績をサーバー内であげるとレッドランクに認定される。 レッドランクはサーバー内(例えば日本・北東北サーバー)から、ごく僅かしか抜擢されない。 他のゲームの最高ランクに比べると、かなり難易度が高く真の猛者の証と言える。 シーズンと呼ばれる期間が終了するとランクは3ランク下がってリセットされるが、最高ランクはプロフィールに表示されるので実力を示す証となるのだ。 他にも大会やイベントで良い戦績を残した場合に特別称号なんかが与えられたりするが・・・俺の場合はシーズンの後半にブラックまで上げたら終わり、というのが定番になっている。 「今回もfullteamモード(4on4)でランク上げするかぁ~待機中のフレンドは・・・もう、みんなチーム組んでるなぁ。そっか、いつもよりインが遅くなったからタイミングが合わないのか・・・残業だけは、本当に勘弁だわ」 格付けに関係あるモードは、バトルロイヤルモードとアリーナモードだがアリーナモードは狭いマップで行われる純粋な1対1のモードで格付けで得られる称号もAホワイトとかAオレンジのようにアリーナバトラーだと一目でわかるようになっている。 が、俺はアリーナモードだとAイエロー止まりの残念な実力しかない。 言い訳をさせて貰えば、俺のゲイボルグはアリーナモードと相性が宜しく無いからだ・・・バトルロイヤルモードは広大なマップで戦闘を行い、撃破数や最終生存順位等でポイントを増やしていきバトラーランクを上げていくモードだ。 1人用のソロモード、2人用の2on2、3人チームの3on3、4人チームのfullteamモードがあり、通常はどれか1つを集中してあげるのが一般的。 俺の場合はfullteamでポイントを稼いでいるので、プロフィール画面の最高ランク表記はfullteam ブラックとなっている。 「空きが出るまで、待つか・・・今日から新シーズンだし金曜日だから皆ガッツリやりそうだな」 画面を眺めながら缶チューハイの飲んでいたら、ウトウトしてきた・・・ヤバいなぁ・・・寝落ちしそうだ。
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