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ソレは想像を絶する光景だった。
少なくとも、敵機は2機以上いるハズだ。
セイヤが撃破された時に複数の銃撃音を確認しているし、やられ際に「こいつら」と言っていた。
そう考えながら、ハルオはアレイスタをカバーできる距離で待機する。
「アレイスタさん、敵は?」
すぐにチャットが表示される。
「見えない、駆動音も聞こえない」
まだ、アレイスタは敵を捕捉できていない。
考えられるケースは2つ、身を潜めているか既に移動してこの場にいないかだ。
奇襲タイプなら、迷彩スキルで隠れている可能性もあるが撃破ログから察すると穴堀スキルで地中に潜んでいるかも知れない。
しかし、穴堀スキルには制限時間がある。
待機している時間を考えれば、穴から出てくる際に駆動音が発生するハズだ。
ハルオが考えを巡らせている間に、アレイスタからのチャットが表示された。
「ラチがあかない。動きます」
痺れを切らしたアレイスタのプルガリオが空中に飛び上がる。
アレイスタは空からの索敵で、大破したペガサスに違和感を覚える。
チャットする余裕は無い、滑空しながらペガサスに標準を合わせてプルガリオはサブマシンガンを乱射した!
無数のヒットマークから、迷彩スキルが解けた茶色いボットの姿があらわになった。
サングラスのようなアイカメラに両腕が鉤爪、全体的に丸みを帯びており、卵のような体型をしている。
なるほど、名前の通り見た目も土竜だな。
そう思いながら、プルガリオは土竜01と思われる敵機を追撃する。
接敵した事を察したハルオのゲイボルグも※遮蔽物となっている建物を飛び越え、カバーに向かう。
※敵からの攻撃を防いだり身を隠す事ができる物。
土竜は鉤爪を開き、手と一体化しているマシンガンで反撃を試みるも素早く動くプルガリオを捉えることはできない。
貰った!
そう思いながら、プルガリオは土竜に向かって距離を詰めながら撃ち続け、これを撃破!
プルガリオ→土竜01
やった・・・勝利に安堵したプルガリオはサブマシンガンをリロードした。
しかし、撃破した土竜の足元に突如現れた穴の中から土竜と酷似したデザインの黒いボットが飛び出した!
隠れていた敵機が遮蔽物の向こう側から穴を掘って奇襲してきたのだ。
鉤爪によるアッパーカットがプルガリオの頭部めがけて放たれる。
間一髪、腕を盾にし直撃を免れたプルガリオだったが右腕が大破しサブマシンガンごと吹き飛んだ。
プルガリオの腕が地面に落ち、金属音が鳴り響く。
やられる。
アレイスタは撃破されることを覚悟した。が、その刹那!
建物の上からゲイボルグのアサルトライフルが黒い土竜に銃撃を浴びせた!
反動を軽減する為、銃を両手で持ったゲイボルグは膝をつき集弾率を高める『しゃがみ撃ち』で一気に黒い土竜を撃破する。
ゲイボルグ→土竜02
「良し、良し!やっぱ、俺はやればできるタイプだ!」
自画自賛するハルオにアレイスタはチャットを送る。
「カバー遅すぎますよ。まぁ、礼は言っておきます」
ハルオは嫌味混じりのチャットを気にも止めずガッツポーズのエモートを披露した。
全く戦闘の役に立たないが、エモートというボットに特定のアクションをさせる機能がある。
中には踊っているようなモノもあり、一部のプレイヤーはエモートを集めて曲に合わせたボットダンスを動画投稿したりもしている。
アレイスタは呆れた様子でチャットを打つ。
「とりあえず、アンチ(安全地帯の略)収縮も始まるし離脱しましょう」
ゲイボルグは建物から飛びおり、敵機の残骸から※アイテムを回収しようと近づいた。
※倒した敵機からリペアキット等のアイテムを回収できる。
が、次の瞬間!
黒い土竜の掘った穴から、赤茶色の土竜が突如現れゲイボルグの顔面を鉤爪で貫いた!
「あっ」
と、いう間にプルガリオも背後から現れた桃色の土竜に攻撃され撃破されてしまった。
油断大敵・・・これはfullteamモードであり、敵機は4機いるのが当たり前。
他のエリアで物資を集めていた僚機が遅すぎる援護にあらわれ、浮かれていたハルオたちを葬ったのである。
「じゃ、抜けます」アレイスタのチャットはアッサリとしたモノで、ハルオは茫然自失となっていた。
「そりゃ、そうだ。いるよね、僚機・・・」
俺は自分の爪の甘さに嫌気がさした。さっさと離脱すれば、奇襲タイプは軽量タイプに追いつけないし、もう少しは順位も上げられただろうに。
画面は自動的に生き残っているバトラーの観戦モードに切り替わった。
あのハングル、まだ生き残ってたのか・・・
「あ~あ、みんなやられちゃったんだ?」
耳障りな、ボイスチェンジしたカン高い声が響く。
撃破ログを見る限り、猛者なのは間違い無いので少し観戦してみるとするか。
「やられちゃいました。抹茶丸さんは、随分と撃破してますね」
「ちょっと、抹茶丸は機体名だろ?ネームで呼べよ」
「すいません、ハングル文字読めないで」
「まぁ、良いけど。あんたは抜けないの?」
「折角なんで、観戦させて貰います」
移動しながら、抹茶丸は納刀し武器を持ち変えた。
「え?その武器・・・バーストライフルですか?」
バーストライフルとは、1タップで2発弾丸を発射できるライフルなのだがフルオート武器では無いので非常に使いづらい。
威力は高いが射撃時の反動も大きい。射撃の精度を上げたい場合は一応、単発撃ちにも切り替え可能だが、どちらにせよ連射するには攻撃アイコンを連続でタップしなければならない。
アイコンを連打しながら、反動制御し標準を合わせる労力を考えたら黙ってフルオート武器を使った方が良いだろう。
「渋い武器使ってますね。あ、重量の関係上それしか装備できないとか?それなら、サブマシンガンの方が良くないですか?」
「威力低いじゃん。急所に当てづらいし」
そう言いながら、抹茶丸は突然銃を構えて発砲した。
タンタンタンタン!
抹茶丸→土竜03
へ?敵を捕捉してたの?てか、タップ撃ち速すぎだし射撃正確すぎて草
タンタンタンタン!
抹茶丸→土竜04
観戦画面を見ていた俺には敵がどこに隠れていたのか、全くわからないままヒットマークだけが遠くで光っていた。
「バーストライフルは単発撃ちにすると、ブレ少ないから狙いやすいよねー!ある程度、近づいたら・・・」
タタン!タタン!
抹茶丸→願眼顔
岩陰から銃撃しようと目論んでいたであろう敵機は、姿を見せた瞬間に撃破されてしまった。
「アイツ、撃つの遅すぎ~あと、機体名キモすぎぃ~」
ガンガンガンって読むのかな?哀れなり、ガンガンガン。
「ハルオとやら、まだ朕のプレイが見たいか?」
ちん・・・天皇とかが自分を指して言うやつだっけか?
「え、えぇ良ければ最後まで見させて下さい」
カン高いボイスチェンジの声がいっそう高くなる。
「へへへっなら、魅せてあげようでは無いか!」
うわっ・・・へへへって笑う人、現実で初めて会ったかも。
そんな事を思いながら観戦画面を肴にし、飲みかけだった缶チューハイを口に含む。
残るは抹茶丸を含め、8機のみ。
フルパ4機と3機なら、かなり分が悪い。
「お、あそこの小都市にいるねぇ」
「あの~潰し合うの待った方が良くないですか?」
「は?あと7機でピッタリ20機撃破だよ。寝言は猫と言え」
猫は喋らないと思います。寝言は寝て言えが正しいかと・・・そんな言葉を飲み込んで、俺は抹茶丸のプレイを見続けた。
小都市に乗り込んだ抹茶丸に気づいた汎用タイプ2機が同時に襲いかかる!
ペガサスと同じようなブレードを装備した敵機が剣を振り上げた瞬間、抹茶丸の刀は既に振り抜かれており敵機の頭部が宙を舞う。
何が起きたかわからない僚機は、破れかぶれで小型アックスを※投擲してきた!
※手で物を遠くに投げること。
小型アックスの固有アクションか?不意を突く手段としては悪くないかも知れないが・・・通用する相手では無い。
小型アックスは刀で打ち返され、敵機の脳天をカチ割った。
そのまま踏み込み、またもや首を斬り飛ばす!
「まだいるんでしょ?でてきなさいよ!さぁ、次に刎ねられたいのはどちら様?」
口調が変わったぞ・・・まさか、女性バトラー?
いや、それより今の煽り文句って黒鬼武者のサリナが言ってたやつだよな?
想像を絶する刀さばき、常軌を逸した射撃力・・・まさか、本人!?
「・・・サリナ?」
俺は思わず、声に出してしまった。
「何よ、今最高に盛り上がってるんだから話かけないで!って、あんた、今、何て、えぇー!何で知ってるの!?」
集中力を欠いたせいで、抹茶丸はフリーズ状態。
住宅街の奥から、銃撃音が響く。
「あ、あんたのせいで別が来ちゃったじゃない!20撃破できなくなっちゃう!」
結局、抹茶丸は19機を撃破し俺たちのチームはWINNERとなった。
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