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ソレは偶然の出会いだった。
試合終了後・・・ロビーと呼ばれる、いわゆる準備画面に切り替わる。
チームは解散するまで組んだ状態になっている為、俺の画面からカン高いボイスチェンジした声が響いている。
「ハルオのせいで20撃破できなかったじゃないの!どーしてくれるのよ!」
めっちゃ呼び捨てにされてるわ。確か、あの時が15歳だったから今は17歳か?
最近の女子高生って、みんなこんな感じですか?
「まぁ、集中力を切らせてしまったと思えば俺にも非がありますかね。申し訳ございません」
本心では無いが、素直に謝ってみるスタイル・・・どうだ!?
「まぁ、分かればよろしくてよ」
チョロい。
「サリナさんは、復帰したんですか?」
暫くの沈黙の後、ボイスチェンジを切った可愛いらしい少女の声が返ってきた。
「別に、久しぶりにちょっと遊んでみたくなっただけだし。復帰とか、しないし」
この実力でプロ復帰しないとか、勿体ないとしか思えないが・・・もしかしたら、性格に難がありすぎてクビになったのかな?
「えっと・・・今は趣味でボッバト楽しんでるって事で良いですかね?」
「まぁ、そんな感じよ」
これは、もしかしたら千載一遇のチャンスなのでは?
サリナとフレンドになれれば、かーなーり!試合の勝率が上がるんじゃあないか?
もしかしたら、念願のバトラーランク レッドまでいけるかも知れない。
とは言え、こんな微妙な実力のオッサンとフレンドになってくれるだろうか?
「実は、俺・・・凄いファンで(白夜叉神レイナの)こんな形で出会えるなんて、夢みたいです。良いモノ見させてもらいました!ありがとうございます!」
「え、そうなんだ・・・私のファンなんだ」
「ファンじゃないと気づかないッスよ。最初は全く分からなかったです。あの、もしかしてこれって御忍びプレイってやつですか?知られたら不味いとかありますか?」
もし、そうなら弱味を握れるかも知れないぞ!フレンド申請を断れない状況まで持っていければ、万々歳!
「不味いわよ!内緒でプレイしてるんだから!言いふらしたりしたら、ただじゃ置かないんだからね!?」
もはや、チョロいを通り越してボロいな。
オレにとって、御忍びプレイの理由は正直言ってどーでも良い。重要なのは~利用価値があるかどうかぁ!
「勿論、口外しませんよ」
「ミリも信用できない!」
ミリ?㎜《ミリメートル》的な?邪念を感知されたか!?あんな神がかったプレイするくらいだから、人の心理を読み取るセンスがあってもおかしくない。
「疑わしきは罰するのが、私ルールよ!たった今からハルオは監視対象となりました!」
私ルールも気になるが、なりました!の違和感ハンパ無い。
「監視、ですか?」
「眠い。じゃ、私寝るから」
自由だなー!?質問に対して答える気がミリも無いんですか?ミリの使い方、わかったかも。
「お、おやすみなさい」
「おやすみー」
サリナがチームから抜けた為、ロビーに表示されているアバターは俺だけになった。
これも戦闘に関係無い要素だが、アバターと呼ばれる自分の分身的な存在がロビーに表示される。
アバターの服は着せ替えもでき、課金してでもお洒落な服を着せたい!と、いうバトラーも結構いる。
顔や髪型、髪の色も変更可能だが、俺とサリナのアバターは最初から着ている細身の白いパイロットスーツ姿で、長くもなく短くも無い黒髪の男性キャラだ。
今日はフレンドになれなかったが、名前や機体名で検索すればフレンド申請を送る事柄できる。
とりあえず、次回ログインした時にでも申請してみよう。
などと考えていると、画面にメール受信マークが現れ、本文が表示された。
「読めないハングル文字からフレンド申請が来ています」
逆に向こうからフレンド申請きたー!?
なるほど、監視するならフレンドになっていた方が都合が良いって訳か。
フレンドになるとメールやチャットのやり取りができるようになり、一緒にプレイしやすい環境が作れる。
デメリットとしては、思っていた以上に変な人だったり一緒にプレイしているうちにプレイスタイルが合わないからやりたくないけど、フレンド削除するの気まずいなぁ、なんてことも多々ある。
特に異性に対して執着するタイプだと、かなり面倒なことになるケースもあるのでフレンドとの付き合いは広く浅くがオススメだ。
これもまた、オンラインバトロワゲームあるあるの1つ・・・さて、もうすぐ朝の4時になろうとしている。
明日は遅番の12時出勤とは言え、睡眠はしっかりとらなければ。
社会人バトラーたるもの、仕事に支障が出る遊びは控えなければ!
それに、土日は可愛い女子大生のアルバイトも来るのでコンディションと身だしなみは整えておかなければならない・・・忘れないうちに鼻毛切っておこう。
別にやましい事を考えている訳では無いが、20歳以上の女性に好かれたいと思うのは自然な事だろう。
俺は子供に興味が無いので女子高生に好かれても嫌われても得もしないし、損もしない。
しかし、サリナは今後のボッバトライフを有意義に過ごせるかの鍵になるかも知れないので丁重に扱うつもりだ。
とりあえず、次に会った時には・・・バトラーネームを謎のハングル文字から変えて貰えないか、お願いしてみよう。
そして翌日・・・
しっかり仕事をこなし、今日は残業無しで定時にあがれた。
いや~今日もアルバイトのヨーコちゃん可愛かったなぁ~大学で教育学を学んでいるらしい。
歳はかなり下だが、しっかり者でお姉さんっぽいところが良き良き。
コンビニ弁当を食って、シャワーを浴びて髪を乾かせば準備OK!
iPadを起動させ、ボッバトにログインする。
さて、フレンド欄を見てみるか・・・サリナは既にログインしている、がプレイ中だな。
フレンド欄には、どのモードをプレイ中で何分経過してるか表示される。
サリナはアリーナモードでプレイ中だ。
アリーナモードは3セット先取で最大でも5回の一騎討ちというシステムなので、そんなに時間はかからないだろう。
良くも悪くも、誘ってくれそうなフレンドもいないので、このまま待機してサリナを待つことにした。
お、サリナが待機中になったぞ。
何気に、誘うとなると緊張するな・・・そもそもレベルが段違いな事が躊躇に拍車をかけてくる。
そんな事を考えていると、画面にメッセージが表示された。
謎のハングル文字から誘いが来ています。了承しますか?
またもや、先手を打たれたぁー!YESを選択すると、ロビーにサリナのアバターが現れた。
昨日と違い、見た目が女性になっているし服も髪も初期スキンでは無くなっている。
服は近未来っぽく銀色に光るミニのワンピース、髪は緑がかったツインテール・・・どこぞのボーカロイドっぽい感じだ。
「こんばんは、サリナさん・・・もしかして、アリーナの報酬でスキン手に入れたんですか?」
サリナのアバターが(*^ー゚)b グッジョブ!!的なエモートをしながら、例のカン高いボイスチェンジ声で喋りだす。
「軽くアリーナでポイント稼いできたんだお!」
おっと、これはいけない!
だおキャラはウザがられがちですよ、お姫様!
とは言え、機嫌を損ねたくも無いし触れたくも無いのでスルーしてアリーナの戦果のほどでも聞くとしよう。
「どんな感じですか?」
「ん~Aグリーンまで上げたけど、熱いバトルはなかったかなぁ」
Aグリーンですって?
「え?どこスタートですか?」
「この※サブ垢、昨日作ったばっかだから無色スタートだお!勿論、負け無しだおー!」
※サブアカウントの略でメインアカウントは本垢等と言われたりする。
ハイテンション、ごちそうさまです。
「流石ですね、まぁ、サリナさんなら当然なんでしょうけど」
サリナのアバターが髪をかきあげるエモートをすると同時に予想通りの台詞が返ってきた。
「まぁ~ねぇ~」
機嫌良さそうだし、ちょっくらお願いしてみよう。
「ところで、サリナさん。バトラーネームなんですけど変更できませんか?」
「何故か?」
「まず、読めないのが1つと、読めないせいでうっかりオープンチャット中にサリナさんと呼んでしまうと御忍びプレイに支障があるかと」
ちなみに、オープンチャットとは敵にも味方にもボイスチャットが聞こえる状態で基本はoffになっている。
たまに、一騎討ち中にお互いに盛り上がっちゃってオープンチャットでやりとりしてるバトラーなんかも見かけたりする。
例えば・・・
「この攻撃をかわすだと!?貴様、やるじゃないか」
「おっと、驚くのはまだ早いぜ?ここからが、本番だ!」
みたいな?
ちなみにオープンチャットが喧しくて嫌な場合は聞こえないようにもできる。
「ん・・・ならば、ハルオよ。このサブ垢を名ずけさせてやる!光栄に思うが良い!」
無茶振りきたー!?
少し考えたが、いきなりすぎて全く浮かばない。もう、適当で良いや。
「そうですね・・・サリーなんてどうです?」
「魔法使いかよ!」
良く知ってんな!
「やっぱ、ダメですよね。サリナに近すぎるし」
「いんや、採用!」
えぇんかい!
早速、サリーに変えて貰ったが、もう1つだけお願いしたい事がある。
「あと、ボイスチェンジ、もう少し低い声に調整して欲しいです」
「注文の多い料理店かよ!」
なんだかんだで、こちらの要求は全部飲んでくれた。
思っていたより、扱いやすそうだ。
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