だって、退屈なんだもん

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だって、退屈なんだもん

「ねぇ、もう良いでしょー!バトルしに行こーよ!」 サリナ改め、サリーのアバターがプンプン怒っているエモートをしている。 「了解です。fullteamだと、御忍びプレイはやりづらいですし2on2で良いですか?」 「何でも良き!なんなら、ハルオと1対1で勝負しても良いんだお?」 それは、今世紀最大級に時間の無駄だ。例えればライオン対子犬くらいの目に見えたバトルになる。 「・・・じゃあ、2on2でスタートしま~す」 2on2はほとんどプレイしてないので、マッチングするバトラーのランクも低いだろう。 どうせ激戦区に降りたがるだろうから、ポイントを稼いでるfullteamよりも2on2の方が即撃破された際の被害が少ない。 「ステージはグリーンシティ、航路はAで降下ポイントは中心部の大都市で良いですか?」 「お?ハルオ、バトルするき満々じゃん!OK、行こー♪」 まぁ、実際に序盤で戦うのはサリーだけだろうけどな。 俺は敵が少なくなるまで芋らせてもらうぜ。 降下中に索敵するも、敵機の姿は見えない。まさかのフリーか? ちなみに、降下にもテクニックがあり如何に速く着陸するかが重要なポイントだ。 速く着陸する=敵機より先に物質や強いポジションを取れるからだ。 サリーはガッカリだろうが、俺はいきなりバトルするより有利な状況作りの方が好ましい。 ズン!と、いう重低音と共に機体が着陸し砂煙を上げる。 良し、まずは物質集めだな。と、思った瞬間・・・すぐ後ろでズズン!と着陸音が響いた。 振り向くと・・・敵機が2機もいるじゃ、あ~りませんか!? 狙って後降りしたのか?いや、恐らくは初心者が降下タイミングをミスって遅く降りてきたのだろう。 しかし、1対2は危険極まりない! 「コナクソー!」 俺は間髪入れず、アサルトライフルで先制攻撃を仕掛ける! 見たところ、2機ともサンプルボットの汎用タイプ・・・反撃される前にダメージを与えて、遮蔽物まで移動してしまえば無理に追っては来ないだろう。 ヒット&アウェイは軽量タイプの基本戦術。反撃の銃弾が数発機体をかすめたが、耐久値はほとんど減っていない。 しかし、予想に反して2機とも突撃してくる! やれやれだぜ・・・こっちの方が1機あたりに与えているダメージは大きいというのに強引に詰めてくるとは、これだから初心者は困る。 遮蔽物から極力、体を出さないようにして迎撃する。アサルトライフルを構えた右腕だけを出すイメージだ。 俺の銃撃が連続でクリーンヒットし、1機を撃破! これで、もう1機も怯むだろう。 と、いう考えが及ばないのがビギナーズ! 僚機がやられたのに、ブースト全開でタックルをかましてきた! 至近距離で使う武器が無い場合、肉弾戦になる。 パンチ、キック、タックル等々、様々なバリエーションがありタイプによっては結構な威力があったりする。 撃ち返したが止められず、タックルを右側から食らって右腕破損! アサルトライフルが使えない! さっきの反撃が思いの外、右腕に当たっていたのか!? 左手でバックパックのマークスマンライフルを掴み取り構えるが、敵機も既にアサルトライフルを構えている! 「なに遊んでんの?貰うよー!」 刀で斬られた敵機の胴体がズレ、地面に落ちた。 サリーがカバーに来てくれたか・・・危なかった。 「そこ、突っ立ってると危ないよ?※射線通ってるから」 ※銃撃を行う際の銃砲身軸の延長線 「うっわたぁ!?」 サリーの抹茶丸に蹴り飛ばされた瞬間、立っていた場所が銃撃された! 「あ、ありがとうございます」 手荒いが、マジで助かった・・・別チームが潜んでいたのか。 「敵機の射撃ポイント把握した?私は右回りで詰めるから、ハルオは左回りで!」 「りょ、了解!その前に、リペア使っても?」 「ダメ!ぐずぐずしてると、チャンス逃すよ?左腕のマークスマンライフルで援護して!必ず、決めるから・・・ね?」 サリーの指示に従い、左展開すると敵機を捕捉できた! 2機ともサンプルボットだな。派手にブースター音を出している抹茶丸に気をとられている様子だ。 俺は考えるより先に、背後からマークスマンライフルで奇襲をかける! いつもなら両手持ちで撃つんだが、片手だと反動がデカイく上手く当たらない! それでも、敵機があたふたしているところに抹茶丸が飛びかかり、鮮やかな連続斬撃で汎用タイプ2機の頭部を刎ね飛ばした。 サンプルボットはアイカメラしかついてないので、これで行動不能になり撃破となる。 予備カメラをどこかにセットしてる場合、切り替えれば戦闘続行できるが・・・大概は切り替える暇も無く止めを刺されてしまう。 「うぇ~い!ナイス、連携だったねハルオ!」 あれ? なんだろう・・・今、なんか凄く楽しい。 いつものような立ち回りは出来なかったが、スピーディーな連携が上手くいくと、こんなに気持ち良いものなのか・・・ 「ほい、リペアキット。腕修理したら、敵捜しにいくよ!」 「了解!」 めっちゃリードされてるなぁ・・・まぁ、これが実力差ってやつだろう。 そもそも、考え方が違うのだ。 サリーは『撃破する立ち回り』俺は『生き残る立ち回り』をしている。 ゲームをするにあたって、プレイ内容でバトラー自身の成長も変わってくるのだろう・・・20分身を隠しているよりも20分戦ってる方が上達も早いって事か? 元プロゲーマーなのだから、そもそもゲームしている時間に差がある訳だが・・・やはり、経験に勝るモノは無いのはリアルもゲームも同じなんだろうな。 「このエリアには敵機いないね。アンチ決まり次第、中心部陣取ってガンガン撃破狙っていくよ!」 「アンチ際で様子見・・・」 と、言いかけたが・・・今回はサリーの※オーダーに身を任せる事にした。 ※ゲームでは指示、または指示する人の事を指す。 「了解!」 中心取りのメリットはアンチから外れづらい事と、接敵しやすい事だ。 逆に接敵を避けたいバトラーにとってはデメリットとなるポジションでもある。 また、敵機に挟まれたり遠距離から削られやすいという点もデメリットだ。 「敵の位置はまだわからないから、集中してね。さっきみたいには助けられないから撃たれても撃破されないように急所が隠れやすいポジションで索敵して」 「了解!」 近くの遮蔽物が銃撃された!敵がこちらを狙っているが当てられないようだ。 「そっち、任せる。私はN方向に隠れてる敵を狙うわ」 もう、敵を捕捉したのか・・・俺はマークスマンライフルのスコープを覗き、銃弾が飛んできた方向を索敵する。 基本的に砲身が長い銃の方がスコープの倍率は高く、遠くの敵を狙いやすい。 砲身の短い銃で遠距離を撃つ場合、偏差がおきるので当てるのにもテクニックが必要になるし距離によっては威力も減衰する。 見つけた!敵はアサルトライフルを構えているようだが、アサルトライフルのスコープ倍率だと、この距離で正確に当てるのは難しいだろう。 正面からの撃ち合いになったが、今度は両手持ちでの射撃なので反動は少ない! 反撃の銃弾が肩や足をかすめたが、先に俺の銃弾が敵機の耐久値を削りきった。 ゲイボルグ→ホリデー 撃破ログが流れた! 「こっち、クリア!」 タンタンタンタン・・・タン! 抹茶丸はバーストライフルを単発撃ちに切り替え、素早く正確な射撃で残る敵機の頭部を撃ち抜いた。 抹茶丸→フライデー 「こっちもOK!ログみた感じ、同じチームっぽいね。カバーし合えないくらい離れて行動するなら、それ相応の実力がないと、ね?」 抹茶丸が撃破した敵機の距離は俺が撃破した距離よりも遠かった・・・バーストライフルのスコープはアサルトライフルと同倍率、しかも俺は威力の高いマークスマンライフルで6発以上は撃ったのに対して5発しか撃っていない。 わかっていた事だが、本当に上手いな。 「サリーはプロチームにいた頃から、こんな戦い方を?」 「まっさかぁ~プロは勝ってなんぼだから、ずっと中心取りなんかしないよ。ちゃんと敵の数見て、情報集めて強いポジションとってから攻めたり防衛したりしてたよ。だから、ハルオの立ち回りは間違ってないと思うよ?」 「じゃあ、なんでこんなオーダーを?」 「だって、退屈なんだもん」 その後、俺たちの取ったポジションは最終アンチとなり次々と敵機が襲いかかってきた。 結局、さばききれなくなった俺は途中で撃破されてしまったが、サリーがラストチームを撃破し、このマッチのWINNERとなった。 最終的な撃破数は俺が5機、サリーは11機。 普段のfullteamだとWINNERになっても2~3機撃破して終了のパターンが多いが、1マッチで5機は久しぶりだった。 始めたての頃、敵を見つけたら突撃しては返り討ちに合い、運が良ければ5~6機撃破してベスト3くらいの戦績を繰り返していた事をふいに思い出す。 撃破するゲームか・・・ 「11機とか、全然物足りないんだけど!?ハルオ、次いくよ!」 「了解!次は俺も、もっと撃破するからな!」 「その意気や、良し!さぁ、ガンガンいくよー!」 「ところで、サリーって何本指でプレイしてるんだ?流れるような動きで、一挙一動無駄が無さすぎるんだが?」 「ん?小指使ってないから、8だお。指の数なんて気にするの?格闘と奇襲タイプ以外は、4本でも充分だと思うけどねー!」 自分から、こういう質問をするのは久しぶりだな。 もっと上手くなりたい・・・サリーを見ていると、そんな気持ちが強まっていった。
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