ギルフォードに愛を

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 *** 「僕も変わり者だが、君も相当な変わり者だね」  お互いにパフェをつつきながら話すこと数十分。いや、もう一時間は過ぎただろうか。やがて彼が呆れたように口を開いた。 「僕みたいな偏屈な人間に、よく会いたいと思ったものだ。……しかも、ブラックコーヒーが好きなあたり、本当は甘党でもなんでもないのだろう?それでも注文を続けるのは……もう少し僕と一緒にいたいからか?君も大概だね」  ああ、やっぱり見抜かれていたか。私は苦笑いで返すしかない。  もう少し。もう少しだけ此処にいたい。  だから私は、このパフェ一つにやたらと時間をかけている。最初のパンケーキをさっさと食べきってしまったことを後悔しているがゆえに。 「何か不安なことでもあるのか?僕みたいなのに会いに来るくらいは」 「……わかりますか」 「人の心の機微に疎い自覚はあるが、まあそれでも随分長いことここにいるからね。想像くらいはつくとも」  流石にバレてはいたらしい。観念して、私は椅子に座り直した。 「実は、結婚したい男性がいまして。でも、お母さんに反対されてるんです」  そう告げた途端、彼は露骨に眉を顰めた。 「えっと、僕は恋愛小説は書かないし、そういったことには非常に向かないという話をしていなかったかな?僕に恋愛相談なんて、蛙に人間関係の精算を頼むほどに無意味なことだと思うが」 「い、いえ。そうではなくて。……悩んでるのは母との関係なんです。私は彼の傍に居たい、ずっと支えたい。でも母は……あの人の職業が不安定であることを理由に結婚を反対してきます。確かにあの人はミュージシャンで、そんなに売れてもいないし稼ぎも安定しなくて……。でも、だからこそ私がきちんと働いて支えてあげなきゃって思ってて」 「なるほどねえ」  彼は少し考えた後、ことん、と空になったカップをソーサーに戻した。そしてウェイターを呼び、コーヒーのおかわりを注文する。ついでに、すっかり空になってしまったミルクとガムシロップの追加も。 「やっぱり不毛な相談だね、それは。しかし、それはさっきとは理由が異なる。僕が相手だから、ではない。そもそも君は欲しい答えが決まっていて、僕にその同意を求めているだけだ。そんな相談ならやめたまえ。そして、誰かに背中を押して貰えなければぐらつく程度の覚悟なら、そのような結婚はするべきではないね」 「!」  完全に、見透かされていた。私は膝の上で拳を握りしめる。  この人ならば。
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