ギルフォードに愛を

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 作家として小説を書くことに命を燃やし、己の情熱全てを芸術に注ぎ込んできたであろうこの人ならば。同じように芸術に生きるあの人の価値を、わかってくれるのではないかと思ったのに。  だが、私が何かを言うよりも前に彼は、“君は大きな勘違いをしている”と告げた。 「君が愛するその人に価値があるかどうかなど僕が知るものか。なんせ会ってもいない、君のフィルターごしの情報しか手に入らない。それでどうして、客観的にその人の価値を判断できると?僕は最初からそんな意味もない議論などするつもりはないよ。僕が問うているのは、単純な君自身の心の問題さ」 「私の……」 「そうとも。そこまで本気で彼を愛しているのなら、誰に反対されようが誰に認められようが関係なく意思を貫くしかあるまい?君にとって一番に大切なものが何かを見失ってはいないかね。本当に欲しい物があってその障害があるのなら、何を捨ててもそれに手を伸ばすしかできないのだから」 「で、でも!私はお母さんにも認めてほしいんです。私の本当に愛した人のことを!」 「だから、その僕が結婚に反対する余地がなく、かつお母さんの説得方法を考えてほしいだけならそんなことは……」 「それはいけないことなんですかっ!」  思わず、声を荒らげてしまっていた。  この人なら、あの人の価値をわかってもらえると思っていた――それだけではないのだ。  この人だからこそ、わかってほしかった。だって。 「認めてほしいのは、貴方に対しても同じなんです!お願いはぐらかさないで。……おかしいですか。自分の“お父さん”に、背中を押してほしいと願うのは」  そう。  目の前の彼は、ホラー作家で有名な麻丘大儀(あさおかたいぎ)。  母と結婚し、私が生まれてすぐに亡くなった――私の実の父親だ。  死んだ人に会いに来ることができる装置が発明され、一度だけ高いお金を払ってそれを使うことを許された。だから、父と同じ年になった今それを使って彼に会いに来たのだ。  自分を女手一つで育ててくれた母との向き合い方が、どうしてもわからなくなってしまったがゆえに。 「……では、作家・浅丘大儀としてではない言葉で語ろうか」  コーヒーのお代わりを受け取りつつ、彼は、父である浅丘大儀は告げる。
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