ギルフォードに愛を

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ギルフォードに愛を

 目の前には、やや長く伸ばした黒髪を後ろに一つで束ねた男性が座っている。やや長い前髪と眼鏡で分かりづらいが、なかなか顔立ちは整っている方であるようだった。事前に見せてもらった写真よりもイケメンかもしれない、と私は思う。  年は私と同じくらい。二十五歳かそこらだろう。コーヒーを飲みながら、思わず本音を漏らしてしまっていた。 「あの。貴方、学校とかでかなりモテたんじゃないですか?」 「ええ?」  お洒落でこじんまりしたカフェ。テーブルの正面に座る彼は。飲もうとしていたコーヒーカップを一度ソーサーに置いて、目をまんまるに見開いた。 「何の冗談だ?この僕が女性にモテただって?」 「はい。だって、とても綺麗な顔立ちをなさってるから。私と違って」 「しれっと卑下を入れてくるのはやめてくれ、女性にそう言うふうに言われたら男は気を使ってしまうものだよ。そこで“そんなことはない”と言っても“そうだね”と肯定しても君を傷つける可能性はある。そんな二択を僕に押し付けるのはやめてくれたまえ」 「あ、ご、ごめんなさい」  それもそうだ。私は即座に謝った。確かに今の場合、“そんなことはないよ”という返事を期待していた場合と、とにかく自然に自分を下げてしまっただけの場合があるだろう。前者は肯定されなければ傷つくが、後者は肯定されても“お世辞なんて要らないのに”とかえって傷つくのかもしれない。いずれにせよ、美人でなくても美人と言わされてしまう感はある。いずれにせよ嘘をつくのが嫌な相手には、非常に苦い気持ちにを味合わせることだろう。  まだ短いやり取りだというのに、既に私はなんとなくこの人のことを理解しつつあった。多くの男性は、思ってなくても“そんなことはないよ”と返してしまうケースが多いだろう。それを、わざわざ分析して明言を拒否して来ようとは。  偏屈な人だ、という事前情報はあったけれど。これは想像していた以上に面白い人物であるのかもしれない。まあ、多かれ少なかれ“変”なところでもなければ、作家なんて職業に就いてはいないだろうけど。 「……既に察した様子だけど、僕はこういう人間なんでね」  さっきコーヒーを飲みかけてやめたのは、うっかり砂糖等を入れるのを忘れたからであったらしい。角砂糖を三つも打ち込んでくるくる回した上、シロップも二つ開けてしまった。その上でミルクも入れようというのだから、彼は相当な甘党と見て間違いないだろう。 「人の感情を察するのも苦手なら、そこから最善手を導き出すのも下手で、さらにはそれを選択して実現させるのも下手と来た。モテたはずかあるものか。殆どの女性とは付き合って早々に、“こんな人だと思わなかった”と捨て台詞を吐いて別れられたよ」 「ああ、なんとなく想像がつきます」
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