マンボウの中心から愛をこめて

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鈴木幸恵(すずきゆきえ)は自動ドアの前に並んで、付箋を貼ったチラシを真剣に眺めていた。 地元でも有名な激安スーパー、マンボウ。 朝と夕方の2回特売品のセールがあり、その価格はまさに破格。普段から安いので人がごった返しているのだが、特売品のときは戦場になる。 しかし無法地帯ではない。 スーパーマンボウにはルールがあった。とてもシンプルなルール。 ――走ってはいけない ただ、それだけ。 今朝は念願叶って、はじめて列の先頭に並べた。次からもこの時間に出てこよう、と決意する。 夫の会社が倒産したのは半年前。 幸恵はその知らせを聞いたとき、すぐにパートを始めた。 しかしようやく決まった夫の転職先の給料は以前の半分――子どもには伝えていないが、とても少なくなった。自分のパートの給料を足しても前の収入に届くはずがない。
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