マンボウの中心から愛をこめて

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夫は以前の職場で順調に役職を上げていた。勤続年数も長かった。 だが今の職場では一年目の一番下っ端だ。どれだけキャリアがあったとしても、すぐに前と同じ地位につけるはずはない。 しかしイチから仕事を覚え、愚痴も言わずにがむしゃらに頑張る夫を見て家計が厳しいなんて愚痴は吐けなかった。 ――せめて少ないと言うくらいなら、ある程度私も努力してからじゃないと夫に申し訳ないわ。 そう思ってから家計の見直しを始めた。そしてハマってしまったのだ、食費の節約に。いや、もっと厳密に言うと「特売品の争奪戦に打ち勝って食費を安くすること」に。 最初はなかなか買えなかった。クリーニング屋のパートを終えて急いでスーパーに向かっても、大体特売品は売り切れている。夕方の安売りに駆け込んでも熱気に押されてなかなか手に入れられない。 そんなとき、初めて手に入れたのがじゃがいもだった。じゃがいも1個10円。たった2個しか買えなかったけれど、幸恵は満足だった。 そんな様子を見て「一緒に頑張らない?」と声をかけてきたのが松尾さんと花村さんだ。 今日は二人とほぼ同時についた。僅差で幸恵の方が早く、列の先頭に並べたのだ。 「あら、鈴木さんもお早いんですね」なんて笑いながらいう二人に、少しザワザワしてしまったのはここだけの話。
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