マンボウの中心から愛をこめて

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勝負事になるとつい真剣になってしまう。負けず嫌いな性格のせいで、スーパーでの特売品争奪戦で友人を二人失ってしまいそうだ。それくらいヒートアップしている。いつもは夫にも言えないような愚痴を言い合って盛り上がっている大事な友人なのに、こういうときは憎たらしく感じてしまう。 冷静になれ、と幸恵は目をつぶった。 一度深呼吸してちらりと後ろに視線をやると、二人はチラシを見ながら、手首や足首をほぐしていた。そうだ、準備運動を忘れている。幸恵は慌ててアキレス腱を伸ばした。 「鈴木さんは今日、何狙い?」 「私はニラともやし」 「やっぱり、そのふたつは外せないわよね」 真後ろの松尾さんがニヤリと笑った。うちは今夜炒め物にしようと思って、と口にする。「うちもよ」と、松尾さんも花村さんも同意した。 「もやしは先着30個まで1円、ニラは一束5円、こちらも先着30個まで。」 花村さんがチラシを読み上げる。自分たちの後ろにはたくさんの人が並んでいた。同じように皆、チラシを眺めている。 スーパーマンボウの入り口をくぐった瞬間から一斉にスタートし、あとは順番関係なく争奪戦だ。大事なのは、どれだけ早く商品にたどり着けるか。そのためには列の前方にいた方がスムーズなのだ。 ルールはただひとつ、走ってはいけない。 「お二人は今日どんなルートの予定で?」 幸恵が聞くと、二人がパッと顔をあげた。 「ナイショに決まってるでしょう、鈴木さんったらいじわるね」 松尾さんの言葉と同時にスーパーの店員がやってきた。 「まもなく開店しまーす」
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