マンボウの中心から愛をこめて

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幸恵はチラシをリュックに突っ込んだ。 かごの位置はあそこ、右手で掴んでまずは一直線にもやし売り場へ。きっとニラは別のところに移動しているから、もやしに向かいながらチェック。これまでの傾向を考えると総菜コーナーの目の前だ。ニラまで行く途中に卵もあるから取りたい、ついでに明日のお弁当にいれるちくわも欲しい。 シミュレーションしながら、固く閉ざされた自動ドアの前に足を置く。 腕を一度大きく広げ、さげる。つま先で地面を押し、その硬さを感じる。 スニーカーを見る。これが私の積み重ねた努力だ、努力を信じろ。大丈夫、私は絶対勝てる。今日までひたすら練習を積み重ねてきたじゃないか。 右足を一歩前に出す。両腕を折り曲げ拳を握り、体の横にセット。 目線はまっすぐ正面。 スタンディングスタートの姿勢をとって、大きく息を吸う。隣で松尾さんと花村さんも息を吸った。鋭い視線が私に突き刺さる。今日はライバルだ。戦いだ。友人だからなどという遠慮はどこにもいらない。 頭に子どもたちと夫の顔が浮かぶ。母さん頑張るからね、と強く思う。 三人の存在がなければ、家計を守れてはいないだろう。 「私、歩くのが早くなりたいの」 そう宣言した日から毎晩欠かさず続けたウォーキング。理由も聞かずに「頑張って」と後押しをしてくれた。 まさかスーパーマンボウで戦っているなんて夢にも思っていないとは思うけれど、いつか自慢できるくらい特売品争奪のプロになりたい。
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