マンボウの中心から愛をこめて

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後列に大きく差を広げ、三人でもやしをゲットする。おひとり様1個限り、もちろんそのルールを守るのは大前提だ。 そのまままっすぐ歩いて魚売り場の前を曲がり、野菜売り場から離れたところへわざと置かれたニラコーナーに向かう。 予想通りだ、総菜コーナーの中心にニラがいる。 後列が近づいてくる。 まずい、ちくわ売り場はもっと手前だったか。 この勝負は一瞬の気の迷いが負けに繋がる。 幸恵はちくわへの想いを振り切って、右手で卵を掴む。 後列がもう真後ろに迫っている。彼らはもやしに目をくれず、最短ルートで通ってきた客たちだ。 幸恵たちのようにもやしや卵をとるわけではないから、その分速いのだ。 列に混ざってしまえばお目当てのニラへ辿り着くのは難しくなる。絶対に混ざってはいけないのだ。人混みに揉まれれば最後、そこから脱出することは不可能。 しかし幸恵は遅れをとってしまった。靴紐がほどけ、つまづきそうになったのだ。 カツン、と前のめりになる幸恵を従業員が凝視する。こんなときにどうしてと、神様を少し恨んだ。 松尾さんも花村さんももうずっと前に行ってしまった。 ニラを手に取り、くるりと曲がってパンコーナーに向かっている。 幸恵の横にはさっきまで真後ろにいたはずの主婦たち。ズンズン幸恵を追い抜かし、颯爽とニラを手に取る。
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