マンボウの中心から愛をこめて

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幸恵は靴紐をパラパラと左右に振りながらも懸命に歩いた。 思わず走り出したくなる。もっと前に進みたくなる。 でも諦めてはいけない。先着30個なんだから、そこには届くはず。 25、24、23、22 ニラがどんどん減っていく。あとたった数メートルが遠い。人に揉まれてどんどん遠くなる。 15、14、13、12 手を伸ばす。せめて届けと手を伸ばす。 5、4、3、2 家族の顔が、頭に浮かんだ。 「走れ!」 ビクン、と肩が跳ねた。 もうニラが目の前というところで横から主婦の叫び声が飛んできた。幸恵に走れと叫んだその主婦は、鼻息荒くワゴンに飛びつく。幸恵を惑わし、走らせて失格させようとしたのだ。 「そんな小細工に、引っかかるか!」 幸恵は目の前のニラを鷲づかみにした。 そのまま歩いてレジまで向かう。背後から悔しそうな主婦の叫び声が聞こえてきた。ちくしょう、ちくしょう。 どうとでも言ってくれ。幸恵は勝ったのだ、結果が全てだ。 ちくわは買えなかったけれど、今日はニラともやしを炒めて中華炒めにしよう。昨日買った豚肉をいれよう。目玉焼きも作ろう。幸恵は胸を張って、レジにニラともやし、卵を出した。
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