マンボウの中心から愛をこめて

8/8
前へ
/8ページ
次へ
スーパーマンボウから出ると、開店からたった5分しかたっていないことに気づく。 「おつかれ、ニラ買えた?」 水筒のお茶を飲みながら花村さんが声をかけてくる。いつの間に取ったのか、エコバッグの中には食パンと豚肉も入っていた。 「なんとかね。走れ、なんて叫ばれて驚いたわ」 「やあね、そんな猫騙しに引っかかるかっつーの」 花村さんが言ったと同時に、自動ドアから先程ニラバトルに負けた主婦が出てきた。キッとこちらを睨みつけ、足早にその場を後にする。 「あれ、松尾さんは?」 「仕事よ、走っていかないと間に合わないって」 「そうなんだ。大変ね」 「鈴木さんは今日おやすみ?」 幸恵はハッとする。時刻は8時36分を回ったところ。今日の出勤は9時。ここからクリーニング屋までは自転車で15分。もたもたしている暇はない。 「私行かなくちゃ!」 慌てて自転車のカゴにエコバッグを入れ、鍵を外す。 「じゃあ花村さん、またね!」 「うん、気をつけてね」 ペダルを一個踏み出して、走り出す。風を浴びる。ああ、ようやく走れる。 「鈴木さーん!」 後ろから花村さんの声が聞こえた。 「いってらっしゃーい!」 幸恵は右手を高く挙げ、背中でその声に応えた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加