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高校を登校拒否していた私は、心神喪失状態でぼんやりと歩いていた。
自分でも少しおかしいって思っている。どうしてここにいるのか、ここから動けないのかが思い出せない。
坂道の途中の電信柱に、いくつもの花束が供えられている。ここは事故現場だったのか?
そこに、いつも現れる30歳くらいの男性が、今日も現れた。日に日にやつれて来ているようで、なぜか私はとても気になっていた。
今日も、彼はそこに白い花を手向ける。
とても悲しそうに見えた。
恋人でも亡くしてしまったんだろうか?
私はずっとここから離れられなかったけれど。気づいたら彼の後をつけて歩いていた。なぜか、この時だけはそこから離れる事が出来た。
彼は、ある一軒家の方に歩いて行った。
見覚えがある。
私の家だった。
彼は、玄関先で私の両親に頭を下げていた。
私の両親は、なぜかすっかり痩せ細って、疲れたように見えた。普段穏やかな両親だったけれど、彼に対しては取り付く島もないといった様子だった。
「もう二度と来るな!!」
と、父は彼を追い返した。
そして項垂れた彼は、あの坂道へと向かって歩き出した。
私は放っておけずに彼に付いて歩いた。
フラリフラリ、と、おぼつかない足元で彼は歩く。
そして、
「もう、何もかも、終わりにしてしまいたい・・・」
と、そう呟いた。
ぼんやりと、彼は遠くに見えるトラックを振り返ると、フラリと車道に飛び出した。
私は思わず、危ない!と彼の手を引いた。
瞬間、フラッシュバックするように、何もかもを思い出した。
私はクラスで、酷いいじめを受けていた。
なぜか、私はいつも特に同性から嫌われてしまう。自分でも理由が分からなかったから、人の言う事を聞いて、大人しく振る舞っていたつもりだ。それすら気に入らないと思われたようで、『男子に媚を売っている』って謂れの無い事でいじめられている日々だった。
ある時は、目に見える暴力だったり。それが露呈されると、今度はグループラインやSNSが、私をいじめる場所になった。
遠巻きに見ている人はいたけれど、なぜか味方になってくれる人はいなかった。
ある時、私は何もかもがどうでも良くなり、生きている意味すら分からなくなって、苦しいだけの人生なら、いっそ全て終わりにしてしまいたいと思った。
そうだ。
この坂道で。
私はあの日、この人が運転する車の前に、飛び出したんだ。
急ブレーキの音と、人々の喧騒と。
私の記憶はそこで途切れていた。
私がここを離れられなかった理由。
ここに縛られているだけの、自由になれない魂。
私は、彼を抱きしめると、
『あなたは悪く無いから。
生きてください。
辛い思いをさせて、本当にごめんなさい』
と言った。
「え!?」
と、彼は驚いて私を見た。
呆然として彼は私を見上げると、その目からは、ボロボロと涙が溢れて来ていた。
私は、光の粒子に包まれて、ふわりと散り散りになって行った。
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