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求婚
「魔獣を愛されし闇の姫よ、我が妻となれ──」
青国の若き皇帝は、魔獣を従えし漆黒の姫に求婚した。戦乱の真っ只中に。
皇帝と闇の姫が対峙している周辺では、青国の兵士と魔獣が死闘をくり広げていた。
「あなた、状況をわかっていて?」
「だからこそだ。このまま争いを続けていては、いずれ共倒れとなろう。そうなる前に共存の可能性を探りたいのだ」
「あら、奇遇ですわね。わたくしも、それしか道はないと考えてました」
「ではおれの申し出を受け入れるか? 我がものとなれ、闇の姫よ」
「ええ。そのお申し出謹んでお受けしましょう。ですがひとつだけ覚えておいてくださいませ。わたしは誰の『もの』にもなりませんわ」
「我の言葉が気に入らぬか。では言い直そう。闇の姫よ、おれの妻となってほしい。あなたが欲しいのだ」
「闇の姫は、あなたの妻となりましょう──」
戦乱の真っ最中に婚姻が決定したことにより、魔獣との戦争は休戦となった。
いつ終わるとも知らぬ戦乱が終わったことを、東遼国の民と魔獣は喜び、若き皇帝の決断を称えた。
だが人々と魔獣は知らなかった。
魔獣を従えし闇の姫と、後に賢帝と呼ばれた若き皇帝の、本当の心を。
「皇帝があんなにも美形だなんて聞いてないっ! 凛々しくてお肌もつるぴか、おまけに声まできれい……。見つめられると胸がこう、きゅーんと……。ああ、お傍に立っていられなくなるわ……。やだやだ、呆けた顔を見られたかもぉ!」
「魔獣を従えし姫は、化け物ではなかったのな……。ごく普通の、いや、とびきり美しい女ではないか。美しい、うつくしい。ああ、美しい、うつくしい。うむ、美しい、うつくしい……おお、美しい、うつくしい……(以下略)」
若き皇帝と闇の姫は、互いの顔をひと目見た瞬間、恋に落ちてしまった。
しかし互いの立場ゆえに、なにより素顔をさらけ出すことが苦手なふたり。両思いであると、これっぽっちも思っていなかったのである。
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