夜明けを走る

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夜明けを走る

 排気ガスの匂い、頬を叩きつける冷たい風、夜を切り裂くようなエキゾーストノートの爆音。バイクは静かな住宅街を抜け、人影の無い道路、街灯の切れた暗い夜道を駆け抜けた。ハンドルに感じる振動、両腿に感じるエンジンの温かさ、タコメーターはレッドゾーンを示している。ヘッドライトから伸びる灯りは、深海を照らし出す投光器の眩しい光のようだった。 「集まったのは、俺達だけか」少し先を走っている大崎に向かって、金田はそう叫んだ。三月の初め、風は冷たく、まるで皮膚を切りつけるようだった。「しけてんな。俺達もそろそろお終いだな」 「忙しいんだよ、あいつらも」ネックウォーマーを下げながら大崎はそう言った。「あと四日で高校も卒業だろ。いつまでも、こんな馬鹿みたいな事はやってられねえんだよ」  バイクは赤信号を無視し、その先のカーブを曲がった。街の稜線からは、ビルの明りと障害灯の赤い点滅が見えた。金田達は駅の高架下を潜り抜け、街の中心部へとバイクを向かわせた。ギラギラとしたネオンと、妖しく光る看板、巨大モニターに流れる映像はサイケデリックで目が痛い。光の渦の中を、バイクが風になったように走り抜けていく。ここは風の先頭。まるで自分自身が光になったかのようだった。 「馬鹿でいいんだよ」金田はそう一人で呟く。「ガキで居られる時間は、あと少しなんだ」
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