淵源

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淵源

 その昔、鵺霧(やぎり)村にはとして(さげす)まれた少女が居た。白髪の赤眼(せきがん)……所謂(いわゆる)、アルビノだ。  未だに好奇の目で見られる事の多い存在。今以上に、周囲からの理解がなかった時代。  人里離れた山奥の狭い村に生まれた少女は、村人みんなから【鬼の子】と呼ばれ忌み嫌われていた。そして、少女が七歳になった頃。  村で、原因不明の疫病が流行り……一人。また、一人と病に侵され死んでいった。  当時の村には、医者もおらず。どうしたものかと、生き残った村人同士で話し合っている時。  神職の家系で、当時から発言力のあった斑木(まだらぎ)家の当主が恐ろしい事を言った。 「村で疫病が流行ったのは、の所為だ。あの子をにすれば村は救われる」  何の根拠もない言葉だったが、次に死ぬのは自分かもしれないと怯え暮らしていた村人たちは藁にも縋る思いで斑木の指示に従ったのだ。そして【鬼の子】と呼ばれていた少女は何もしていないのに、村人たちの手によって惨殺されてしまう。  生きたまま。腹を裂かれ。四肢を切り落とされ。目玉を抉られ。 無残な姿になった少女は、きちんと弔われる事もなく。斑木によって、村の東西南北に埋められた。 「の死体を要とし、村を囲う結界をより強固にする。これで、二度と村の中に災いが入って来る事はないだろう」  すると、実際に疫病が収束し村に平穏が戻った……かに思えたが、その平穏も長くは続かなかったのだ。何故なら、更なる災厄が起こってしまったから。  それは、として少女の殺害に関与した者が次々と不審な死を遂げると言うものだった。  ある者は、全身が捩れ骨が皮膚を破き内臓が飛び出し息絶えているのを発見され。また、家の中に大量の血と何かに引きずられた跡だけを残し消息不明になった者もいた。  村人たちは、一連の出来事はとして惨殺された少女の祟りに違いないと結論付け。少女をとする事を提案した斑木の当主に全責任を負わせ様とした。  だが、斑木の当主も祟りによって絶命してしまう。  両目が抉れ。舌を引き抜かれた状態で布団に横たわり亡くなっているのを一人息子が発見したのだ。  これは、自分たちの手に負えないと判断した当主の息子は分家の五六(ふのぼり)へ助けを求める文を出す。五六は斑木の分家なのだが、強い霊力を持つ者が多く。  それに加え、五六の当主は人柄も良く人望が厚い。故に、斑木の当主は五六を村から追い出したと言う過去があった。  息子は、亡き父親に代わりその事を詫びたが五六の当主は優しい言葉で返す。 「私たちを村から追い出したのは、先代当主であなたが謝る必要はない。亡くなった方を悪く言うのは、(いささ)か気が引けるが……今回の事も、悪いのは先代当主である私の兄だ」  それから、息子は五六の当主と共に神事を執り行い少女の怒りを鎮める為の社を新たに建てた。しかし、少女の死体が埋められた場所は亡き斑木の当主以外知らず。  きちんと供養する事は、出来なかった。  以来【鬼の子】と呼ばれ悲惨な最期を遂げた少女は、村の守り神【白神様】と呼ばれ敬われる様になった。
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