忌楽章【照る照る坊主】

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――零士(れいじ)  どうするべきかと俺たち三人が話し合っていると、(りょく)が何かに操られるように無言のまま灯りの方へふらふらと歩き出した。 「え、ちょっと ! 」 「おい。止まれ、どこ行く気だ」  咄嗟に俺がその肩を押さえるのと同時に、反対側の腕を久哉(ひさや)が強く掴んだ。だが、(りょく)は一切反応しない。  俺が奇妙しいと思っていると、久哉(ひさや)と目が合った。目は口程に物を言うっと言う諺があるが、俺たちは互いが同じ事を思っているっと察し無言で頷くと(りょく)を連れ本堂へ戻ろうとする。 だが、(りょく)の身体がビクともしないのだ。(りょく)はどちらかと言うと瘦せ型で力も余りないと思う。 久哉(ひさや)(りょく)と身長こそ大差ないが常日頃身体を鍛えてる事を俺は知ってるし、俺もそれなりに力はある方だと思ってる。なのに、そんな俺たち二人が引っ張っても(りょく)の身体は動かないのだ。 「何だよ。これ……おい、(りょく) !   本堂に戻るぞ ! 」 「(りょく)くん ! 」 「……」  左右から声をかけるがやはり無反応で、身体も床に張り付いた様に動かない。 「二人とも、(りょく)を……お願い」 「え ? 」 「は ? ちょっ、おい ! 」  すると黙って俺たち三人の様子を見ていた壱樹(いつき)が、言うだけ言って灯りの方へと走って行ってしまう。驚く俺と久哉(ひさや)だったが、追いかけたくても(りょく)を置いて行く訳に行かず遠ざかる壱樹(いつき)の背に向かって叫ぶ事しか出来なかった。 「くそっ」 「久哉(ひさや)くん ! ここは、俺に任せて壱樹(いつき)を追って ! 」 「でも」 「俺が行くより、久哉(ひさや)くんが行った方がいざって時。壱樹(いつき)をきちんと、止めてくれるだろう ?   だから、弟を頼むよ」 「……解った」 「(りょく)くんの事は任せて」  最初は、(りょく)を残して行く事を躊躇(ためら)った久哉(ひさや)だったが……俺の説得に答える様に頷いてくれた。 「あ、そうだ ! そこの部屋に、俺が昔使ってた竹刀があるから持って行って ! 」 「ああ ! 借りてくぞ ! 」  指さした部屋に入ると、久哉(ひさや)は竹刀袋を肩にかけ直ぐに飛び出してきた。俺が昔、剣道をしていた時に使用していた物だ。  才能なしで直ぐに辞めてしまったけど、俺と違って久哉(ひさや)は器用で剣道の才能も十分あるからきっと役に立つだろう。 「壱樹(いつき)をお願いね。久哉(ひさや)くん……さて、(りょく)くん」 「……」 「……(りん)(びょう)(とう)(しゃ)(かい)(じん)(れつ)(ざい)(ぜん)」  遠ざかって行く久哉(ひさや)の背を見送ってから、再び(りょく)に向き直り声を掛けてみる。だが、やはり(りょく)は何の反応も示してはくれない。  なので、物は試しと思い(りょく)の眼前で印を結びながらを唱えてみた。すると、微かに(りょく)の身体がビクッとなる。  相変わらず目は虚ろだが、腕を引くと先ほどとは違いすんなりと身体が動いた。俺はホッと胸を撫で下ろし、そのまま(りょく)の手を引き本堂へと戻る。  俺の後を付いて来ては来る(りょく)だが、他に反応を示さないその姿はまるで操り人形の様だ。そんな(りょく)が心配で、俺は前を歩きながら何度も後ろを振り返り確認した。  そうしている内に、いつの間にか本堂の前まで戻って来ていたので取り合えず中に入ろうと襖に手をかけたのだが……開かない。 「 ! ……父さん ! 母さん ! 」  中で寝ている筈の両親に、大声で呼びかけてみる。だが、中からの反応はなく襖をこじ開けようかとも思ったが片手では難しいだろうと断念した。  今、(りょく)の腕を掴む手を離せばまたどこかへ行ってしまうような気がしたからだ。父か母のスマホに電話をかけてみようかとも思ったが、ズボンや上着のポケットにスマホがない。  どうやら、本堂の中に置き忘れたようだ。 「やっちゃった……  こんなんだから、久哉(ひさや)くんに「天然兄弟」って言われるんだよな。ははっ……これから、どうしよう」  もはや自分の阿保さ加減に呆れて、頭を抱えるしかない。今から壱樹(いつき)久哉(ひさや)の後を追おうにも、どこに向かったかわからないし……何より、放心状態の(りょく)を連れて下手な事は出来ない。  俺は暗い廊下に立ちつくし、必死に思考を巡らせた。 ――久哉(ひさや)壱樹(いつき) ? ……くそ、どこ行ったんだよ。あの阿保」  零士(れいじ)に頼まれ壱樹(いつき)を追ったまでは良かったが、廊下が異様に暗く早い段階で姿を見失ってしまった。それでも、足音や気配を頼りに後を追っていたのだ。  裏口の開いた音が聞こえ外に出たまでは良かったが、雨のせいで足音や気配……更には、足跡までもかき消されてしまった。これでは、どの方角に走って行ったのかわからずに俺は途方に暮れる。 「……【晴れ法師】の石碑に行ってみるか」  根拠はないが、何故か【晴れ法師】の石碑に向かえば何とかなる……そんな気がした。 「場所は確か……裏山、だよな」  都久志(つくし)は、明日。場所を教えると言っていたが、俺はその場所を知っていた。  何故なら、今は亡き父に教えられていたからだ。  <「久哉(ひさや)、お前は俺と同じで視えるだけじゃない。並外れた勘の鋭さがある。  この先、何があるかわからないからな。その勘を生かすためにも、知識は豊富に持っておけ……いつか、きっとお前の助けになる筈だ」>  幼い頃の俺には、亡き父の言葉の意味がよくわからなかった。でも、今ならわかる。  村の伝承や、歴史など遊びの中で多くの事を父は俺に教えてくれた。【晴れ法師】の石碑も、山で遊んでいる時に教えられたんだ。  それ以外にも、父の言葉に従い沢山学んできた結果役立っている事は数多くある。 「……ありがとな。親父」  空を見上げて小さく呟くと裏口に置かれていた雨合羽と懐中電灯を借り、雨の中【晴れ法師】の石碑を目指し俺は走り出す。 ――壱樹(いつき)  俺は、俯いて足元を見つめ少し後悔していた。単独で動いた事をではない。  傘も差さずに雨の中、夜の森に入った事をだ。春先とは言え、薄着だった事もあり余計に肌寒く感じる。 「寒い……兄さんたち、大丈夫かな」 『この状況で他人の心配とは……飽きれる』 「まぁ、危ない状況なのは理解してるよ。でも、俺には黒曜(こくよう)が憑いてるから……だから、大丈夫」 『(うつ)け者め。俺の力を使えば、また倒れてしまうだろうが』  いつの間に現れたのか、俺の足元に黒い犬が寄り添い歩いていた。黒曜(こくよう)は、悪態をつきながらも本心では俺を心配してくれてるのか横目でちらちらとこちらの様子を伺っている。 「どこか、雨宿りできそうな場所を探そう……」 『そうだな。あまり身体を冷やすと、風邪を引く恐れもある。  ……急ぐぞ』  そして、しばらく歩くと森の中に佇む廃神社の裏に出た。 「ここって、白神様のお社 ? 」 『 ! いつ、っ……』 「黒曜(こくよう) ? 」  何かに気が付いた黒曜(こくよう)は、振り返り俺に何か言おうとしたが言い終わる前に消えてしまう。突然の事に俺も少し戸惑ったが、どうして良いかわからず立ち尽くす。  っとその時、廃神社の方から声が聞こえてきた。 『こっちへおいで、話をしようよ。……壱樹(いつき)くん』 「……」  聞き覚えのない若い男性の声、なのに相手は自分の名を呼んでいる。一瞬身構えるが、このままここで手を(こまね)いていても埒が明かない。  取り合えず、声に従う事にした壱樹(いつき)は廃神社へと踏み入った。 『やぁ、いらっしゃい』 「どうも……」 『凄い、ずぶ濡れ……そのままじゃ、風邪を引いてしまうね。  はい。これで、体を拭くと良いよ』  廃神社に居たのは、俺と同い年くらいの白髪の青年。顔には黒い狐の面を着け、黒い着物を着ている。  生まれてから十八年、この村で育ってきたが青年に見覚えはなかった。何より、青年から人間離れした雰囲気を感じる。 それに、廃神社の筈のそこは凄く奇麗で境内には四季の異なる花々が咲き乱れていた。  俺はまるで、竜宮城に連れてこられた浦島太郎のような気分で差し出したタオルを躊躇(ためら)いがちに受け取り青年に声をかける。 「……君は、誰 ? 」 『んー ? ふふ、誰だと思う ? 』  青年は、俺の問いには答えず小首を傾げ楽しそうに笑う。俺は青年の姿をまじまじと観察した。  古めかしい着物に、飄々としていて全てを見透かし楽しんでいるような態度……まるで、 「もしかして……白神、様 ? 」 『ご名答。因みに、君の式神が消えたのは僕の神域に入ったからだよ。  ここでは、生者以外の存在は僕が許可しないと姿を保てないんだ』 「そう、なんですね」  目の前にいる相手が神と知り、思わず敬語になってしまった俺に対し背を向けた青年が少し寂し気に言った。 『……敬語なんてやめてよ。他人行儀は嫌いなんだ』 「え ? あ、ごめん ? 」  思わず謝罪する俺に、青年は自嘲しながら振り返る。 『いや。僕の方こそごめん。  君は何も憶えてなんだから、他人行儀で当たり前なのに……』 「憶えて……ない ? 」 『……十二年前。僕らは、この場所で一緒に遊んだ事があるんだよ』  青年の言葉に、薄っすらとだが十二年前の事が僅かだが思い起こされる感覚があった。顔や名前は憶えていないが、いつも一緒だった六人の他に確かにもう一人誰かと八人でこの場所で遊んだような気がする。  俺は目を閉じで、必死に思い出そうとするがその部分の記憶だけ霧がかかったように思い出せない。 『無理だよ。僕が消したんだから……』 「どうして ? 」 『……最後の思い出作りのつもりだったんだ』 「最後……」 『五六(ふのぼり)家の次男である君なら知ってるだろう ?   十二年前、僕は封印されるはずだった』 「……」 『だから、生きてる時には叶えられなかった。って事をしてみたかったんだ』  十二年前の事は、確かに知っている。でも、だからこそ妙だと思った。 「……十二年前、君は封印を拒んだって……俺は、父さんから聞かされた。  そして、君は……自分を封印しようとした人たちを」 『それは違う ! っ……いや。  違うくはないんだけど、少なくとも……白神である僕は拒んでない』 「 ? 」 『……今から僕が話すのは、嘘偽りない事実だ。信じるかどうかは君の判断に任せる。  ただ、信じてくれるのなら協力してほしい事がある。もちろんただでとは言わない。  代わりに僕は君に力を貸そう。どうかな ?   僕の話を聞いてくれるかい ? 』 「わかった。ただ、一つお願いして良い ? 」 『何だい ? 』 「君の名前を先に教えて、俺だけ名前知られてるのは……フェアじゃないから」 『へ ? 』  俺の言葉に青年は、素っ頓狂な声を上げる。おそらく式神を顕現できる状態にしてほしいとか、話を聞く代わりに神域の外に出してほしいとか言われると思っていたからだろう。  でも、話しが終わればこの神は自分を元の場所へきちんと帰してくれる。何故かそう信じること出来たからだ。  まさかの頼みに困惑した様子の青年だったが、一瞬の間をおいて次の瞬間には思い切り吹き出した。 『ふっ……あははは ! 何そのお願い ?   ふ、ははっ……』 「 ? 俺、何か変な事言った ? 」 『ふふ。いや、変じゃないよ。  ただ、すっごく壱樹(いつき)くんらしい』  お面を着けているので表情は見えないのに、何故か一瞬だけ青年が満面の笑みを浮かべている様に俺には見えたんだ。思わず目を擦って確認したけど、やはりお面を着けたままだったので見間違いだろうと思う事にした。  そして、青年が深く深呼吸をしてから言う。 『村の人は皆、僕をと呼ぶから本名を人に名乗るのは久方ぶりでなんだか不思議な感じがするよ。改めて、僕の名は(なぎ)だ』 「(なぎ)……良い、名前だね」 『ありがとう。両親がね。 【困難に負けず、全てをなぎ払えるような強い子に育つように】と付けてくれた名なんだ』 「愛されていたんだね」 『……それは、どうだろう』
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