お疲れOL・小西久美の場合

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お疲れOL・小西久美の場合

浴槽にお湯を真ん中まで溜めて、帰りのコンビニで買った入浴剤を計量カップを使わず、そのまま放り込む。 「先方から連絡なんてどうせ来ないっつーの。」 取引先に提出した納期ぎりぎりのイラストにもしかしたらフィードバックが返ってくるかもしれないからと、上司は帰ろうとする私を引き留めた。 先方はいつも午前中にしか返信してこないから、翌日早くに出社して対応したいと前に伝えたが、効果がなかったので今回は口にしなかった。21時になったら上司が帰ったので、15分空けて自分も会社を出た。 「ほんっと、時間がもったいない!」 最近はもう家に着くころには22時半を回っている。風呂に浸かって夜食を食べて、ベッドに入る頃にはいい時間だ。 風呂からあがったら、もう1時半だった。会社にいるときは時間の流れが死ぬほど遅いのに、自由な時間は飛ぶように過ぎていく。 スマホを操作して、「Time is Money」を開く。 「30分、巻き戻し」 これで2千円。安月給の上に毎日こんな調子だから、貯金が一向に進まない。でも、このアプリなしじゃ、もう生きていけない。 ◇◇◇◇◇ -Time is Money 本社- 荻野さんが缶コーヒー片手に近づいてくる。背が高いので、パーテーション越しにもすぐ気づく。 「早川君、顧客アンケートの集計終わった?」 「はい、一通り終わりました。」 「初めてなのに早いねぇ、優秀!で、なんか開発部門の役に立ちそうなコメントとか、あった?」 「専用機種に時計が付いていないのが不便すぎる、というコメントがありました。それも複数。実装したら顧客満足度が上がるかもしれ・・・」 荻野さんが僕の目をじっと見て無言の圧力をかけてくる。今回の発言は自分でも迂闊だった。それにしても、気を遣う職場だ。
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