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大学2年生・国分裕太の場合
何かがおかしい。時間が経つのが遅い気がする。
俺には異性との相性を確かめる黄金の法則がある。
以前、SNSで見かけた投稿「カフェで3時間話して退屈しないかどうか、で互いの相性が分かる」、これは俺にとって黄金の法則になった。
実際にカフェで一緒にいる時間を長いと感じた相手とは次のデートも間が持たなかったし、カフェで4時間一緒にいても話題が尽きない相手とは、その後もうまくいった。
なのに今日、ずっと思いを寄せていたサークルの同期・小川さんを目の前にしておかしなことが起きている。話は盛り上がっている。途中、妙な沈黙があったり、彼女がお手洗いに行ったきりしばらく戻ってこなかったり、きまずい時間が全くないとまでは言わないが、ちゃんと盛り上がってはいるのだ。でも、時間の進み方がものすごくゆっくりな気がする。
「そろそろ、お開きにしよっか」
とうとうあくびをこらえきれなくなってしまった俺の様子を見て、退屈しているんだろうと小川さんに勘違いされてしまった。いや、こんなに時間が長く感じるということは、俺は本当は退屈しているのか?
その後、電車が反対方向だったので、自分が先に乗車した。スマートフォンに通知が来ている。
【Time is Money 2030年 11月9日(土) 8,000円】
昨日の昼下がり、小川さんと会うのが待ちきれなくて購入した2時間の早送りに対する請求だ。そんな期待もむなしく、彼女との相性が黄金の法則的にいまいちだったことに再度がっかりした。
サークルの同期として、これからも仲良くできるといいな。
◇◇◇◇◇
-Time is Money 本社-
「初めまして、市場調査部の安西です。」
「初めまして、2030年新卒入社の早川と申します。」
月に一度、他部署同士の交流を目的としたランチ会が開かれる。ランチは自分にとって貴重な休憩時間なので、こういう会社としてのイベントにランチ時間が活用されるのは正直嫌だった。
「私はアプリのサービス開始前から会社にいた珍しいタイプでね。社長とも古くからの付き合いなの。」
「そうなんですか。じゃあ4年くらい前から?」
「実際には社長に誘われて準備してた期間があるから5年前からねぇ。このアプリを実現するための技術にはとても驚いたけど、まさか今のように沢山の人に使ってもらえるとは当時は信じられなかったわ。」
安西さんは当時、社長からの誘いを何度も断っていたという。時間の巻き戻しや早送りの反動が翌日に来るなんて絶対に顧客にバレると考えたからだ。
「そしたら社長が実際に調査してみろって言ってきたのよ。」
「調査?」
「そう、実際にTime is Moneyを100人に使わせてみて、バレるかどうかは結果を見て判断すればいいだろって、私自身、興味はあったから承諾したの。」
「それで結果は・・・」
「私が思った通り、調査期間の一か月で時間の流れに違和感があると答えた人は半数近くもいたわ。アプリの反動になんとなく気づいたのよ。」
「でも、それじゃあ・・・」
「でも、その人たちに個別にインタビューをして、社長が言っていた意味がようやく分かったのよ。」
時間の流れがおかしいと回答した被験者に安西さんが質問をしたところ、具体的にその原因の究明しようとした人は一人もいなかったのだという。
「時間の流れが速かったり遅かったりするのは今までの人生でもよくあったからって、口を揃えてその回答ばっかりだったわ。」
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