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あの晩、途中までは真剣だった。だが深夜も二時を過ぎれば、人のテンションはおかしくなる。少し悪ノリしてしまいました。今は反省しています(もう、二足歩行ロボですらないし……)。
「あんたのせいで変な汗が出たわ!」
「でも、最高だったろ。自由で、ユニークでさ」
新しい文句を言いかけていた姉貴は、おれを見た。
「なんか、元気になったみたいだね?」
「……やりたいことが見つかったからかな。就活もうまくいきそうだし」
姉貴の顔が輝く。玲にそっくりだ。
「やったじゃん! なんていう会社よ」
「クラシ・ロボティクスっていうところ」
社名を聞いた姉貴は、端末を引っ張り出して検索を始めた。
玲がミニロボを持って帰った後、おれはクラシ・ロボティクス社そのものについて調べたのだ。クラシは、創設から八年目の小さな会社だった。教材用ロボットの販売からスタートし、今では電子義肢や介護用パワードスーツの開発を主な業務としている。事業理念は、『一人一人のクラシに寄り添う、ロボットを』。
ここなんじゃないか、おれは思った。
クラシの求人ページに新卒採用の枠は無かった。それでもおれは履歴書を書いた。教授に頼んで、推薦状まで書いてもらった。
履歴書の最後には、甥っ子のミニロボを魔改造したこと、そのおかげで自分のやりたいことに気づいたことを書いた。そして、魔改造したミニロボの動画を添付して送った。
三日後に届いた返事を読んで、おれは飛び上がった。
「ただいまー」
玄関の方から、元気な声が響いた。ジジババと出かけていた玲が戻ったらしい。
「よお、ミニロボ君の手にポンポン付けたって?」
「そうだよ! 腕は、始めは閉じてて回転が速くなると広がるように改造したんだよ。こんな感じ」
玲は、買い物袋を持った手で実演してみせた。どうやら遠心力を利用しているらしい。おれは素直に感心した。
「お前、色々考えるなあ」
「まあね。ぼく、ロボットデザイナーになるつもりだから!」
「あれ? バナナになる夢はあきらめたのか?」
からかうと、玲はちょっと面倒くさそうな顔をした。巣立ちの日は近いのかもしれない……だが、泣いていても仕方ない。一日でも長く『頼れる兄ちゃん』でいられるよう、努力しないとな。
「じゃ、ちょっと研究室行ってくるわ」
「ええー、大学に行っちゃうの?」
「そう言うなって。今、面白いところなんだよ」
推薦状を頼んだとき、おれは卒論の課題について、教授に新しいアイデアを提案してみたのだった。
「君は変なこと思いつくねえ。でも、試してみたらいいんじゃない?」
意外にも、教授はおれの提案を採用してくれた。「もう少しだけ」なんて言って世界を狭めていたのは、実はおれ自身だったのかもしれなかった。
外に出ると、強い向かい風が吹き付けてきた。だが、足取りは軽い。
自分の行き先は自分で考える。そして、自分の二本の足でその道を歩いていくのだ。
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