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一連のコードをざっと見直すと、チェックツールを起動した。あとはAIがおれの書いたコードを一つ一つ検証し、全てのバグと改善点を洗い出してくれる。支援AIなどというが、どっちが手伝いなんだか。
ログの流れるPCを確認すると、おれは端末をいじり始めた。最近は、気がつけばいつも就活アプリを開いている。経団連が何と言おうと、インターンシップに参加した三年生の夏休みから就活は始まっていた。
画面の中に、プレエントリーを待つ企業がずらりと並んでいる。おれは、そのどれにも気を引かれなかった。無意味に画面をスクロールしていると、ノック音とともにドアが開いた。
「大輝兄ちゃん、いる?」
「返事する前に開けるなよ」
てへへ~、と言いながら入ってきたのは甥っ子の玲だ。姉貴が実家に来るたび、「暇なら相手してもらいなよ、年近いんだから」と押し付けてくる。九歳と二十一歳は全然近くないし、そもそもおれが相手してもらうのかよ……と思いつつ、なつかれれば悪い気はしないのだった。そのうち玲が思春期になって「あ、叔父さん。コンニチワ」とか他人行儀に言い出したら、泣くと思う。
「兄ちゃん、プログラミングの宿題手伝ってえ」
「またかよ。小学生も大変だな」
おれは、玲が抱えていた紙箱のふたに目をやった。
「『クラシ・ロボティクスの教育用四足歩行ミニロボット』……聞いたことないメーカーだな」
「これだよ!」
玲は緩衝材の詰まった箱の中から、黒い塊を引っ張り出した。サイズはおれの手のひらにすっぽり収まるくらい。黒板消しみたいなボディの四隅から、折りたたまれた四本の足が生えている。街中でよく見る四足歩行ロボットのミニチュア版だ。
「こんなのくれるんだ。すげえ。さすが私立」
感心していると、玲はボディのスイッチを入れた。たたまれていた足がかすかな音を立てて伸びる。床に置くと、ロボットは首のない犬か馬のような動きで歩きだした。
「なんだ、普通に動いてるじゃん」
「うーん……」
玲は、口をとがらせてロボットを見ている。おもむろにロボットを取り上げると、スイッチを切った。そして前足の二本をひねったかと思うと、取り外してしまった。
「あ、おい」
再び床に戻されたロボットは、今度は大きくバランスを崩して横ざまに倒れる。玲は大きくため息をついた。
「やっぱりダメかあ」
「いやいや、前足を取ったからだろ。お前なにしてるの?」
呆れるおれに、玲は真顔で言った。
「このロボット、二本足で立たせたいんだ。兄ちゃん手伝って!」
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